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「トランプ大統領の米国」といかに付き合うか

【所長室から】 Vol.3

2016年11月10日

所長の眼

所長
神津 多可思

 米国の長い大統領選が終わった。まさに紆余曲折、大混戦の展開だった。直前まで民主党のヒラリー・クリントン氏優勢との下馬評。ところが結果は、昨年の今頃はほとんどの人が予想していなかっただろう、共和党のドナルド・トランプ氏の勝利である。

 このサプライズで人心が一新されるかと言えば、必ずしもそういうことにもならないだろう。トランプ次期大統領は、選挙戦では具体的・現実的な政策内容についてあまり多くを語らず、過激な発言を繰り返して来た。大富豪ではあるのだろうが、政治資産(political assets)が多いとは決して言えない。

 クリントン氏は当選していれば米国史上初の女性大統領であり、また議会との調整もオバマ氏よりうまいと言われてきた。それでも落選の憂き目にあったのは、先の金融危機後の米国で生活が良くならない有権者がたくさんいたことの証左だろう。そうした事態がトランプ大統領の下で変わるのかと言えば、あまりにも不確実な要素が多いため、はっきりとは分からない。それが次期大統領の政治資産を細らせている。

 トランプ氏のこれまでの主張をみると、まず通商面では自由貿易に否定的であり、これまで米国が環太平洋経済連携協定(TPP)をリードしてきたのとは対照的だ。外交面でも米国はもはや「世界の警察」ではないという立場がはっきりしており、東アジアの安全保障の面でも状況が大きく変わる可能性がある。財政面では減税が指向されているが、必ずしも財源は明確でなく、結果的に財政赤字がさらに拡大する可能性もある。そうなると長期金利の上昇、それに併せてドル高といったことも考えられるが、為替政策ではドル高には否定的だ。

 このようにトランプ次期政権はこれまでとは違う様々な政策を打ち出してくる可能性があるが、それが具体的にどのようなものになるか、いずれも現時点では今一つはっきりしない。加えて大統領選の過程でも明らかになった通り、共和・民主両党の内部はいずれも相対的な保守とリベラルが入り乱れており、そもそも過去のように政策の方向性をはっきり打ち出せるかどうか定かではない。

 さらに、次期政権が置かれる内外の客観情勢は決して有利なものとは言えない。米国経済の景気拡大は既に8年目に入っており、次の4年間で後退局面入りする可能性がある。しかし、低成長・低インフレの中で金利水準は極めて低いため、伝統的な金融政策の余地は乏しい。財政面でも赤字をどこまで拡大できるのか不確実である。

 世界情勢をみても、中東ではなお不安定な状況が続いており、そこでの対応方針をめぐって米国とロシアは対立している。イランとの関係も核合意が破棄されるような展開になれば、昔に逆戻りになるかもしれない。その一方で、中国は安全保障の面でも大国としての存在感をますます発揮しようとしている。こうした中、米国が単に外交・安全保障面での影響力を後退させることが、グローバル経済が発展の基盤とする世界の安全に本当にプラスなのかどうか、議論が分かれるところだろう。

 このように、米国の次期政権の前途は多難にみえる。しかし多難であるからこそ、日本としてはまず、「自由や民主主義といった基本的価値観を米国と共有している」ということを確認し合うことが大事ではないだろうか。その上で、世界の安定に向けて経済・外交両面で日本ができる貢献をきちんと果たすことが、トランプ大統領の米国とうまくやっていく道なのではあるまいか。

PWHOUSE_550r.jpgトランプ大統領を迎えるホワイトハウス(米国ワシントンDC)



(写真) 中野 哲也

神津 多可思

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