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好ましい物価環境 =個人投資家約1200人にアンケート調査=

【所長室から】 Vol.9

2017年08月10日

所長の眼

所長
神津 多可思

 ふとしたご縁で2007年から関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構の非常勤客員研究員という肩書を頂いている。実際には何をする訳でもなく、時折ある研究会などで年配者であることをいいことに、あれこれ講釈を垂れてきた。その関係で、若手の優秀な研究者の仲間に入れてもらい、2012年から「個人投資家の意識等に関する調査」というインターネットによるアンケートのプロジェクトに参画してきた。このアンケートは、株式を含む金融資産に投資をした経験がある者を対象としており、インターネット調査の会社にモニター登録した約2万人の中から、条件を満たす回答者を抽出して行ってきた。

 アンケートの内容は、性別や年齢、居住地域、年収などの属性に加え、生活不安度やリスク回避度、時間割引率を計算するための質問から、金融の知識、投資行動に関するものまで多岐にわたっている。質問の中には、将来の物価変動率の予想もあり、回答者の様々な属性とその予想の在り方の関係なども分析してきた(1) 。さらに2017年3月に実施した調査では、新たに好ましい物価環境についての質問も加えてみた。その際、「自分の家計にとって」と「日本経済にとって」を別々に尋ねると、有効回答者1218人の見方は総合すると非常に興味深いものであった(2) 。

 まず将来の物価変動率については、1年後・3年後・5年後の消費者物価の前年比のイメージを聞いた。図表1がその結果である。5年後であっても、一番多い回答は「+1%以上+2%未満」という選択肢であった。今日の各国中央銀行によるインフレ目標のグローバル・スタンダードである、+2%のインフレはなおはっきり見えていないということであろう。

 ちなみに、3年後・5年後については、2012年の調査開始以降、一貫して「+1%以上+2%未満」の選択肢を選んだ回答者が一番多い。ある意味、その程度の期間のインフレ期待はその辺で安定しているということなのかもしれない。

(図表1)将来の物価変動率予想の分布(百分比)

20170825_01.jpg(注)シャドー部分の回答者が一番多い。

 次に好ましい物価環境については、調査結果は図表2の通りである。「自分の家計にとって」と「日本経済にとって」では回答内容がかなり違う。まず、「自分の家計にとって」は、「物価全般が毎年下がる」(すなわちデフレ)という物価環境について、「どちらかと言うと好ましい」とした回答者が一番多かった。それに「好ましい」と回答した者を加えると全体の半分以上となる。

 これに対し、「毎年2%ずつ上昇する」という物価環境については、「どちらかと言うと好ましくない」との回答者が一番多く、「好ましくない」と回答した者と合わせると6割以上になる。他方、「日本経済にとって」は、質問した何れの物価環境についても、「どちらとも言えない」とした回答者が一番多く、あまりはっきりとしたイメージを持てずにいる可能性を示唆している。

(図表2)好ましい物価変動率の分布(百分比)

20170825_02.jpg(注)シャドー部分の回答者が一番多い。

 こうした違いの解釈は難しいが、少なくとも、「自分の家計にとって」というミクロ的な判断と、「日本経済にとって」というマクロ的な判断は同じではないようだ。ちなみに、「日本経済にとって」望ましい物価環境として、「好ましい」と「どちらか言うとこの好ましい」を加えた、いわば肯定派が一番多いのは「毎年1%ずつ上昇すること」であった。

 個人投資家という特定の属性を持つ、せいぜい千人強の回答者のアンケート結果から、一般的な議論をするのはあまりにも乱暴である。しかし、それを踏まえてもなお、一定の経済知識を持っていると思われるアンケート対象者の物価環境に対するこうした評価は、ある意味とても新鮮であった。2%インフレが、日本経済の安定を通じて自分の家計にとっても望ましいものなのだという得心は、未だ広く共有されているわけではないのかもしれない。

20170825_03.JPG

(写真)中野 哲也 PENTAX K-S2


(1)ご興味のある方は、神津多可思・竹村敏彦・武田浩一(2017)、「Webアンケート調査からみたアベノミクス下における個人投資家の物価変動率予想の変化」、関西大学RISS Discussion Paper Series No.45を参照されたい。このペーパーは、独立行政法人日本学術振興会の科研費(課題番号26380412)の助成を得て行った研究成果である。

(2)以下の分析結果は、神津多可思・竹村敏彦・武田浩一・末廣徹(2017)、「個人投資家が好ましいと考える物価環境と将来の物価変動率予想の関係」、佐賀大学CRES Working Paper Series FY2017-02から引用したものである。このペーパーは、独立行政法人日本学術振興会の科研費(17K03827並びに17K00463)の助成を得て行った研究成果である。

神津 多可思

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