2018年01月19日
所長の眼
所長
神津 多可思
急速に進展するグローバル化の中で、日本の製造業の苦境が言われるようになって久しい。物流の安全が確保され、知的所有権に対する侵害の心配が低くなり、生産工程の効率的な分断が技術的に可能になると、モノづくりビジネスの在り方は大きく変わる。生産工程のどの部分を、地球上のどこでやってもよいからだ。自社の中でもよいし、あるいは他社から部品やユニットという形で購入してもよい。材料を買って自分の工場で造り、完成品を売るというパターンはもはや標準型ではなくなってしまった。
さらに、情報通信技術の進展がもう一段新しい局面に入り、様々な情報を一カ所に素早く集めることが低コストで実現できるようなった。そうなると、これまでモノを所有することで初めて享受できたサービスも、ますます単にサービスとして買えるようになる。DVDレンタルのような話が、自分が必要な時に自動車で移動する際にも適用可能になる。こうしたシェアリング・エコノミーの領域はますます広がっていきそうだ。
こうした中で、所得水準が相対的に高い先進国において、モノづくりの在り方は既に大きく変わってきた。最初は、製品の高付加価値化であった。利ザヤの薄い低付加価値品は、新興国の安い労働力を使って造られるようになる。そして、生産工程の分断がさらに進み、先進国のモノづくり企業は「製造業」とは言え、生産そのものから研究開発、商品設計、マーケティングといった分野に次第に特化するようになってきた。本社機能がサービス産業化して本国に残っていると言ってもよいだろう。カスタマー・ニーズがモノそのものの所有から、モノによって得られるサービスへと変わっていくのであれば、なおさらモノづくりにおいても最終的に「お客様に何をお届けするのか」という点こそが重要になる。
このように21世紀に入り、特に先進国においてモノづくりのビジネスが著しく変容している。その変化は消費財に近い分野ほどスピードが速く、またスケールも大きくなりそうだ。しかし、こうした動きは実はビジネスチャンスでもあるはず。過去の成功体験に基づく古い発想を刷新し、新しいモノづくりの地平を切り拓いていく―。それこそが、これからの日本の製造業に求められる使命なのではないだろうか。
神津 多可思