2018年07月02日
所長の眼
所長
神津 多可思
世界的にみて、日本には長寿の企業が多い。寺社の建築を専門とする金剛組の歴史は1400年以上前の聖徳太子の時代にさかのぼることができ、世界で最も古い企業といわれている。そこまでいかなくとも、創業100年を超える企業は日本に3万社以上あるらしい。
明治維新から150年、第2次世界大戦終結から70余年であることを考えると、その間の著しい経済環境の変化の中で企業経営を存続させてきたというのは本当にすごいことだ。
今年、大学を出て就職をした20歳代前半の人が定年を迎えるのは40年以上先のことだろう。そのころまで、現在ある企業のどれほどが経営を続けていけるか。昨今の加速するマーケットの変化に鑑みると、想像することも難しい。
現存する長寿企業に共通する特徴の一つは、当たり前だが、提供する製品やサービスに対する需要がなくならなかったということだ。全く同じ製品、サービスという意味ではない。衣食住をはじめ、人間が生きていくうえの本源的な求めに応じるためのマーケットというのは、形、姿を変えてずっとあったし、それはこれらもそうだろう。変化にしなやかに対応し、お客様の求めに応じ続けることができたのが長寿企業なのだろう。
企業が変わろうとするとき、縮小していくマーケットに見切りをつけて、新しい分野へシフトしていくパターンをまず思いつく。これは一番分かりやすいが、経営としては一番難しい。それまでの主力の製品、サービスを代替するものが、そう簡単に見つかるはずはないからだ。本当に鋭い目利きが必要になるが、それをもってしても結果的に成功するかどうかは大きな賭になる。
一方、日本の企業の場合、得意な分野でさらなる工夫を重ねるという戦略を採ることが多い印象もある。その場合でも、ニーズの変化の本質を見極め、それにジャスト・フィットする製品、サービスへと変えていかなくてはいけないので、大変なことに変わりはない。経営環境の変化が速いときはなおさらだ。その際、これまでの製品の作り方、サービスの提供の仕方が、新しい時代のニーズのどこにうまくフィットするかという創造的な発想も重要になるだろう。
長寿企業に共通するもう一つの特徴は、お客様や地元、社員などの今でいうステーク・ホールダーに愛されてきたということのようだ。その愛の中での真摯な挑戦こそが100年企業を育んでいく。それは21世紀においても変わらないだろう。
神津 多可思