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暗雲みゆる世界経済

深層 第10回

2018年10月01日

所長の眼

所長
神津 多可思

 本誌RICOH Quarterly HeadLineはお陰様で創刊5周年を迎えることができた。改めて読者の皆様に御礼を申し上げたい。この5年間、世界経済は基本的に順調な展開をたどってきたと言えるだろう。英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)や米国でのトランプ大統領誕生、大陸欧州の政治的不安定などを乗り越え、足元でも+4%弱の実質成長を続けている。

 しかしここへ来て、先行きに対する不安はさらに増している。言うまでもなく、米国の保護貿易主義的政策がその根源にある。特に中国との間で相互に保護関税の範囲を拡大し合う応酬が続いており、既に中国の金融市場ではこうした展開を背景に株安・人民元安が進んでいる。

 保護関税は両国に輸入物価の上昇をもたらす。元々、世界経済が高めの成長を続けてきたことから、原油をはじめ一次産品価格はジリジリと上昇してきた。そこへさらに価格上昇圧力が加わり、それは今後ボディーブローのように効いて両国の経済活動を下押しするはずだ。

 また、米国経済の前回の景気ボトムは2009年央であり、既に景気拡大局面はかなりの長期にわたっている。米国のインフレ率は金融政策が目標とする2%にまで上昇し、労働市場はほぼ完全雇用の状態にあり、企業収益も好調で株価は既往ピークの水準。このため政策金利も徐々に引き上げられており、米国の金利高が一部新興国からの資金流出を促し、アルゼンチンやトルコなどでは大幅な通貨安を招いて経済を不安定化させている。

 米国と中国の経済成長率の低下や一部新興国経済の不振といった変調は、日本にも影響を与えずにはいられない。これらの国々への輸出の減少だけではない。サプライチェーンのグローバル化が一層加速しているため、例えば中国から米国への製品輸出の減少が日本企業から中国輸出企業への部品販売の減少に繋がる。こうした間接的影響は決して無視できない。先のグローバル金融危機の際にも、日本の金融システムには不均衡が蓄積されていなかったのに、米国・欧州のバブル崩壊の日本経済への影響は極めて大きかった。実際、2009年の日本の実質経済成長率は-5.4%と、米国の-2.8%や英国の-4.2%よりも大きなマイナスを記録した。

 このように世界経済の成長率低下は、成長率のトレンドが元々さほど高くない日本経済にとって、再びかなりの痛手となるリスクがある。もちろん米中の貿易交渉がまとまり、秩序あるBrexitが実現する可能性もまだ残されている。しかし、グローバル経済がこれまでとは異なる局面に入ったことは否定できない。その暗雲がいつ台風になるかを、残念ながら天気予報のような精度で見通すことはできない。しかし日本の企業としては、今から風雨に備える構えと、いざ嵐が来た時に機敏に動けるよう準備をしておくに如(し)くはないだろう。

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神津 多可思

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※この記事は、2018年9月28日発行のHeadLineに掲載されました。

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