2019年01月07日
所長の眼
所長
神津 多可思
2019年は新しい年号の元年だ。平成の30年間を振り返ると、経済面ではバブル崩壊後、それまでとは全く異なる環境への順応に大変な時代―。といった感慨を持たれる方も多いだろう。さて次の新しい時代は、どう記憶されることになるのか。
その元年の世界経済を展望すると、決して順風満帆とは言えない。ちょうど1年前にみえていた不確実性の幾つかは予想通り現実となり、世界経済への悪影響がより深刻に心配されている。米国のトランプ政権の諸政策、英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)の行く末、欧州大陸諸国における政治面の不安定化、転機を迎えつつある新興国経済...。マイナス材料には事欠かない。
先行きを悲観し過ぎると、本来であれば刈り取ることができたビジネスの果実を得られなくなってしまう。逆に楽観的にばかりみていると、本当に世界経済が調整局面に入った時、大きなコストを払うことになる。陳腐ながら結局のところ、両者のバランスをうまくとる以外にない。
幸い、足元の世界経済が大きく減速しているという、マクロ統計に裏打ちされたはっきりとした証拠は今のところまだない。したがって、本当に調整が始まるまでには猶予期間がある。それが短くなる可能性を自覚した上で、むしろできるだけビジネスを拡大していくことが重要になる。また、「屋根の修理は晴れている時にしろ」とも言われるように、企業経営が順調なうちにバランスシートの補修すべきところを補修しておくことも大事だ。そうしておけば、将来のキャッシュフローの漏れの心配は小さくなる。
そして、世界経済の潮目の変化に、より注意深く目を凝らす必要がある。一旦、変調が観察されたならば、先行きのマイナス材料がたくさんあるのだから、未練を残さずに調整局面入りを前提としたビジネス方針へ転換を図る。さもないと、思わぬコストを払うことになる。
世界経済が調整局面に入ると、日々のビジネス環境の悪化は避けられない。だが、将来の成長に向けた経営資源の入手という観点からすると、むしろ状況は好転するとも考えられる。景気の調整局面は、将来のビジネス拡大に必要な技術・人材を獲得する好機になるからである。ただし、その時に必要となるキャッシュフローは、晴れている間に準備しておかなければならないが。
景気の循環は避けられない。景気後退など起こってほしくないが、現実にはそうはいかない。そうであれば、それに備えて心構えをした上で、晴れているうちにできるだけ仕事に精を出す以外にない。新しい時代の元年は、そういう年になるのではないだろうか。
神津 多可思