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DXからCXへ

第18回 深層

2020年10月01日

所長の眼

所長
神津 多可思

 2本の線が交差するX(エックス)という文字は、「交わる」を意味する英語のcrossを1文字で表す時に使われる。crossと語感が近いからだろうが、クリスマスをXmasと短くつづることもある。また、crossと同義でも使う言葉にtransがある。trans-Pacificと言えば「太平洋を越えて」という意味になる。そこから、transもXの1文字で表すようになった。

 そのtransの付いた言葉で頻繁に聞くのが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)だ。さらに最近では、DXが企業経営のあり方を変えていく点に着目したコーポレート・トランスフォーメーション(CX)という言葉も目にする。

 平成の30年間を振り返ると、確かに日本経済は元気のない期間が長く続いた。それは、いくつかの要因が複層的に作用した結果だ。今となっては昔話だが、1990年代前半には、バブル崩壊の経済面への影響の本質的な意味合いについてさえ、なお色々な意見があった。1990年代から始まった新しいグローバル化についても同様だ。今日の中国が米国と覇を争う国際的地位を、2000年代に入った段階で正しく予想していた人はどれだけいただろうか。

 そしてDXがやって来た。この新しいイノベーションの大波は、あたかもオセロゲームのように、かつて高度成長の実現に貢献した日本企業の経営的強みを次々に弱みへと変えていく。モノづくりの分野でも、より良い製品をより廉価に製造して世界に広めていくという、これまでの勝ち筋が通用しなくなった。したがって、多くの日本のグローバル企業はDXと、それと同時に急速に進展したグローバル化の中で、企業経営そのものを大きく変えなくてはならない。それがCXだ。

 その上に、今般の新型コロナウイルスの感染拡大である。このショックはDXとCXを加速させる。こうした変化は企業にとどまらず、社会全体を変えることが、ますます見えてきている。社会的距離を保つ生活、1カ所に集まらず分散する働き方...。そうした中で、「働く」と「人生を楽しむ」をどうバランスさせるか。さらには、働くのインセンティブを一人ひとりがどう高めていくか。いずれも、DXとCX無くしては答えが出ない。さらに上述のオセロゲームにおいて、日本企業の弱みを一気に強みに変える可能性も秘めている。

 今後、日本ではますます高齢化が進んでいく。それも深刻な問題を提起する。それら眼の前にある色々な難しい問題を、DXから始まった大きな変化の中で、まとめて解決していくことはできないだろうか。一人ひとりが、今立っているところで前向きに、そして過去にとらわれず、新しいアイデアに挑戦したい。経済研ロゴ.jpg

神津 多可思

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※この記事は、2020年9月30日発行のHeadLineに掲載されました。

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