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世界情勢の変化と日本企業

深層 第2回

2016年10月01日

所長の眼

所長
神津 多可思

 先の世界金融危機の後、どうも世界情勢の潮流は変わってしまったようだ。先進国、新興国ともに経済成長率が高まらない中で、それまでのグローバル化、自由化といったトレンドが滞り始め、場合によっては逆方向にギアが入っている。

 1989年のベルリンの壁崩壊に始まった地球上のほぼ全ての国を巻き込むグローバル化の下で、ヒト・モノ・カネの国境を越えた動きは拡大の一途をたどり、外交・安全保障の面でも、基本的にその動きをサポートする展開だった。ところが、世界金融危機を境に、隠れていたマイナスが一挙に表に出てきた。

 特に、グローバル化の下で、先進国では新たに生み出された富がますます一部の人に集中するようになっている。そのため、ここへ来てアンチ・グローバル化の機運が高まり、英国ではEU離脱、大陸欧州でも反EUの政治勢力が勢いを増し、米国大統領選挙では民主・共和両党候補者とも環太平洋経済連携協定(TPP)には反対という有様だ。

 こうした変化は日本企業のビジネスにも影響する。先進国は成長率が相対的に低いので、量の拡大は元々容易ではない。その中で、経済のサービス化がさらに進展しているので、モノづくりにおいてもいかに新しいサービスを付加できるかがますます重要になる。加えて、サービスへの課金も国によって難易度が違う。「サービス」がタダを意味する日本では、欧米とは違う工夫が必要になりそうだ。

 一方、新興国経済は、成熟化に伴う成長率の一段低下を避けられず、やはり量の拡大はこれまでより制約される。他方、所得水準は上昇しているので、より高付加価値の製品・サービスの需要拡大が期待される。ただし、カエル飛び(リープ・フロッグ)で一挙に最新の製品・サービスが受け入れられるという面もあるので、先進国での過去の経験がそのまま活かせるわけでもない。

 また生産面でも、中国などに世界市場向けの工場を置くというやり方が難しくなっている。主力生産拠点を、人件費の安い国を探して「焼畑製造業」的に動かしていくのか。あるいはIoT(モノのインターネット)等の新しい技術を採り入れて生産コストを引き下げた上で、もう一度母国に戻す(リショアリング)のか。判断の岐路に来ている。

 世界の情勢はどうも新しい局面に入ったようだ。それにあわせて日本企業も、グローバル戦略の刷新を迫られている。

尾灯_20151215_500.jpg(写真) 中野 哲也 PENTAX K-S2使用(A-HDR撮影)

神津 多可思

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※この記事は、2016年10月1日に発行されたHeadLineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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