2017年09月15日
内外政治経済
研究員
平林 佑太
「当然、アンジーしか選ばれないよ!派手さはないけれど、国を任せられるのは、実績と安定感のある彼女だけ」― つい先日、ハノーバーに住むドイツ人の友人が語ってくれた一言だ。
(写真)筆者
2017年の欧州政治イベントのクライマックスであるドイツ連邦議会選挙(9月24日)まで残り10日を切った。政党支持率調査でトップを走るのが、"アンジー"の愛称で呼ばれるメルケル首相率いるキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)だ(図表1)。メルケル氏は、他候補との無用な衝突を避け、地味ではあるが、ひたすら安全運転の選挙戦を貫いている。一部メディアが「退屈な選挙戦」と評するほどに圧勝ムードが漂い、4選はほぼ確実と見られている。
振り返ってみると、1年前の今頃、メルケル政権は支持率の急落にあえいでいた。難民に対して寛容な受け入れ姿勢をとっていたドイツには、2015年1年間だけで100万人以上の難民が流入。2016年7月には難民にまぎれて流入したイスラム過激派によるテロ事件が発生した。治安悪化への不安から政権への批判が高まり、一時は80%に迫っていた首相の支持率は2016年9月には50%を割り込んだ。
さらに、2017年1月末には連立を組む与党第二党である社会民主党(SPD)党首に欧州議会議長を務めたシュルツ氏が就任し、連邦議会選への出馬を表明した。このため、一時的に政党支持率はSPDがCDU/CSUを上回るようになった。メルケル長期政権に対するマンネリムードも強まっていたことから、欧州議会での経験が豊富な「ミスター・ヨーロッパ」シュルツ氏に変化を求めようとしたのかもしれない。
しかし、CDU/CSUと大連立を組むSPDは、政策で現政権との明確な違いを打ち出すことができなかった。しかも、シュルツ氏には国政の経験がなく、政治手腕では明らかにメルケル氏に見劣りするため、一時のシュルツ熱は次第に後退。ドイツ経済の堅調さに加え(図表2)、Brexit問題を抱える英国や、トランプ政権による混乱が生じている米国を反面教師とした安定志向への回帰も大きな後押しになっているようだ。
今や国内外の関心は、「選挙後」に移っていると言っていいだろう。4期目に入る長期政権が今後、国際競争力を維持し続けていくためには、労働市場改革をはじめ様々な構造改革の必要性が認識されている。また、反イスラムを掲げる右派政党のAfD(ドイツのための選択肢)が初議席を獲得し第3党になろうかという勢いをみせており、いまだポピュリズムの芽が完全に摘まれていないことにも注視が必要であろう。
そうしたなかで、CDU/CSUが単独過半数を取るほどの勢いはなく、政権維持には連立が不可欠である。現政権と同じ枠組みで、中道左派のSPDとの連立を維持するか、経済界寄りの自由民主党と環境を旗印とする緑の党との3党連立のどちらかを選ぶしかないと考えられている。政権内部には現在の枠組みでの連立に倦怠感があるとも言われているが、難民問題やディーゼル車規制で自由民主党と緑の党は対極的な立場をとるため、3党連立への道も平坦ではない。メルケル氏にとって、本当の戦いは4期目に入った後に待ち受けているのかもしれない。
(出所)独政治・選挙研究グループサイト(FORSCHUNGSGRUPPE WAHLEN)
(出所) ドイツ連邦統計局
平林 佑太