2015年01月01日
内外政治経済
所長
稲葉 延雄
少子高齢化や人口減少が日本の経済社会を破壊するのではないか―。こうした危機感が高まっている。エコノミストと呼ばれる経済分析者や政策担当者の間でも、経済の長期停滞を招くとか、年金制度の維持を困難にする、さらには地方経済を崩壊させるなどと主張されており、その論調は概して否定的である。
しかし、人口減少は悪いことばかりではない。例えば、「地球上で供給制約の強い財」がより少ない人数で分かち合えるようになる。典型的なものとしては土地問題が挙げられる。人口が多いと土地不足となり、止むなく山間や海沿いなどの不便な地に住むことになるが、人口が減ればその必要がなくなる。土砂災害や津波に遭遇するリスクも小さくなり、より安全な生活を確保できる。
世界規模で問題となっているCO2(二酸化炭素)削減に関しても同様である。人口が減れば、一人当たりの排出量が変わらなくても、総排出量は削減できる。人口が増加する場合と比べて、その対応は格段に容易になる。
また、日本社会の先行きを日本人の頭数だけで議論するのも間違っている。もし一人ひとりの日本人の潜在能力が高まり、それを遺憾なく発揮できれば─ 経済学的には、日本人一人ひとりの生産性が上がれば─ 人口減少のマイナスの埋め合わせも可能になる。若い世代が減少しても、一人ひとりの生産性が高まれば、当人も豊かになるし、より多くの高齢者を支えられ、年金制度も維持される。
だから、少子化は一人ひとりの生産性を高める上では、チャンスになるとも言える。子供の数が少なくなれば、教育に割ける限られた資源をより多く分配でき、より賢い日本人に育て上げることができる。そもそも、日本社会はより丁寧に子育てをするために少子化を選んでいるのではなかったのか。いずれにせよ、より丁寧に育むことで、今の大人以上に立派な日本人を育て上げることができる。
人口減少対策としての「産めよ、増やせよ」はいかにも古い考え方である。もちろん、子供が欲しいのに諸般の事情で持てない人々に対しては、十分な支援が欠かせない。しかし、人口減少社会への対応の要諦は、「立派に育て!」である。少なくなる子供を甘やかすことなく、慈しんで育て上げ、一人ひとりの能力を高めていくことこそ、日本社会の豊かさを増進していくための近道である。
稲葉 延雄