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米国中間選挙 トランプ政権に対する「信任投票」

=下院で民主党逆転?「ねじれ議会」誕生か=

2018年10月19日

内外政治経済

研究員
久木田 浩紀

 11月6日、米国で上下両院の中間選挙が行われる。今回は、2017年1月に就任した共和党のトランプ大統領に対する「信任投票」という側面が強い。現在は両院とも共和党が過半数を制しており、与野党逆転が起きるかどうかが焦点。選挙予想サイトによると、上院は共和党が過半数を維持するものの、下院では民主党が逆転に成功するとの予測が強まっている。となると、「ねじれ議会」の状況に陥る。

 米国の連邦議会は上院と下院から成る二院制。その主な役割は法案の作成である。法案を提出できるのは議員だけで、両院の審議と可決を経て大統領の署名により成立する。

 上院は、各州の人口と関係なく50州から2人ずつ、計100人の議員を選出。任期は6年で2年ごとに3分の1ずつ改選する。一方、下院の定数は435人で、各州の人口に比例して議席数が割り当てられる。2年ごとに全員が選挙の洗礼を受ける仕組みだ。選挙制度は州によって微妙に異なるが、小選挙区制を採用する。

(出所)各種報道を基に筆者作成


 現在は上下両院とも共和党が過半数を制するが、上院については米メディアや予想サイトの多くが共和党有利と見ている。共和党の非改選議席が43もある上、民主党が強い人口の多い州でも議席は「各州2人」のルールが適用されるため、共和党の優位は動きそうにない。

(出所)Real Clear Politics,Cook Political Report,Predict It

 一方、下院では民主党有利を予測する見方が多い。実は、1994年の中間選挙以降、与党側が上下両院とも制したケースは2002年の1回だけだ。これは前年の同時多発テロを受け、ブッシュ大統領(子)の求心力が高まったという事情がある。こうした例外を除けば、与党の専横にブレーキを掛けたいという世論の「逆バネ」が働くことが多い。

(出所)各種報道を基に筆者作成

 ただし、こうした予測の精度自体を疑問視する向きもある。2016年の大統領選挙では、大手メディアや専門家の大半がヒラリー氏勝利を予測し、軒並み外したからだ。

 品性を欠く発言の多いトランプ氏については、有権者が世論調査に対して支持の表明を躊躇(ちゅうちょ)したとも指摘される。今回の中間選挙は大統領を選ぶわけではないが、やはり予測は容易ではない。

 こうした中、中間選挙を占う上で注目された8月のオハイオ州下院補欠選挙では、共和党候補が民主党候補を僅差で破り、トランプ大統領の支持率自体も回復基調にある。民主党有利との予測が多い下院でも、2016年大統領選のような「大逆転」が起きる可能性も排除できない。



トランプ大統領の支持率

(出所)Real Clear Politics


 中間選挙の結果は今後のトランプ政権の運営にどのような影響を与えるだろうか。2つのケースに分けて考えてみたい。

①上院で共和党・下院で民主党が勝利

 大方の予想通り上院で共和党、下院で民主党がそれぞれ勝利すると、「ねじれ議会」となる。どの法案を優先して審議に入るかは、多数党の意向で決まるため、政権側の要望が下院では通りにくくなる。

 実は前オバマ政権でも、1期目の中間選挙後に「ねじれ」が生じ、目玉政策だった医療保険制度改革(オバマケア)などが難航した。

 特に注目すべきは、民主党が予算関連法案を盾に共和党に対抗できるようになる点だ。予算措置がなければ当然、トランプ政権も政策を実行に移せない。このため、政権側が民主党の協力を得るには妥協をしなくてはならない。

 例えば、トランプ大統領が公約してきた移民排除政策などの実現が難しくなるだろう。また、自由貿易を否定するような強硬姿勢も維持できなくなるかもしれない。ただし、民主党内にも対日強硬派が少なくないため、楽観視は禁物だろう。

②上下両院ともに共和党が勝利

 それでは、共和党が両院で勝利を収めると何が起こるか。トランプ政権は「信任」を得たことになり、2期目を目指す2020年の大統領選挙に向け、求心力が高まるだろう。

 これまでトランプ大統領は中国やカナダなどの有力な貿易相手国に対し、関税率引き上げなどを突き付けながら、米国製品の輸入拡大を迫る強硬姿勢を続けてきた。日本も自動車や農産物などの重要分野で大幅な譲歩を迫られるのではないかと懸念を強めている。

 こうした中、今回の中間選挙で共和党が上下両院を制すると、有権者から「信任」を得たとして、トランプ大統領は一層勢いづくかもしれない。「自国主義」を一段と強めるようなら、世界の自由貿易体制は本当に崩壊に向かいかねない。また、安全保障面にも暗い影を落とし、米国のプレゼンスが低下する地域では武力衝突が起こるリスクが高まるかもしれない。

 日本にとっては、米国から輸入拡大圧力が強まるのは必至。1980〜1990年代の貿易摩擦が再燃する恐れもある。日本企業がグローバル戦略の根本的な見直しを迫られる可能性も排除できない。

20181019_01.jpg米国連邦議会議事堂
(写真)中野 哲也

久木田 浩紀

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※この記事は、2018年9月28日発行のHeadLineに掲載されました。

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