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今秋中間選、支持率低迷に苦悩

=バイデン米政権1年、主要政策を検証=

2021年12月27日

内外政治経済

研究員
芳賀 裕理

 米国で民主党バイデン政権が発足してから1年。連邦議会の上下両院でも与党民主党が主導権を握り、バイデン大統領は野心的ともいえる政策を矢継ぎ早に打ち出してきた(2021年12月23日現在)。

 しかし、支持率は低迷を続けている。1990年代以降の政権1年目としては、過去最低を記録したトランプ前大統領の37%に次ぐ43%まで低下、不支持率は51%に達する(2021年12月16日時点、ギャラップ調べ)。本稿ではバイデン氏が打ち出した政策の実行度を点検しながら、不人気の背景を探ってみた。

歴代政権1年目の支持率

図表

(注)1990年代以降
(出所)ギャラップ

Ⅰ.新型コロナ対策・雇用

 バイデン氏は大統領選期間中から、トランプ氏とは対照的に、新型コロナウイルス対策に積極的に取り組む姿勢を鮮明にしていた。「だれもが検査、予防、治療を無料で受けられる態勢の整備」を柱とする選挙公約を発表し、就任直後には「2021年4月末までに計2億回のワクチン接種」の目標を掲げた。

 その言葉通り、ワクチン接種の態勢をいち早く整え、4月中に目標を達成。滑り出しは順調に見えたが、その後、野党共和党が地盤とする州を中心に接種ペースが伸び悩み、2021年12月22日現在、米国で接種を2回完了した人は61.22%と世界10位にとどまっている(Our World in Data調べ)。

 業を煮やしたバイデン政権は、11月から5〜11歳の子どもへの接種(約2800万人が対象)を推進、従業員100人以上の民間企業などにも接種を義務づけた。だが、ワクチン反対派からの反発が根強く、実効性が上がるかどうか依然不透明だ。

 一方で、バイデン氏はコロナ禍で傷ついた家計を支援するため、大型経済対策にも早々に着手した。2021年3月、「米国救済計画」と名付けた予算総額1.9兆ドルに上る新型コロナ対策法が成立。国民1人当たり最大1400ドルの現金給付や、失業給付の特例加算(300ドル)の延長(3月→9月)などを盛り込んだ。

 また、連邦最低賃金引き上げについても、大統領令に署名し、就任前の10.95ドルから15ドルまで引き上げた。これによって、コロナ禍で職を離れた国民の働く意欲の向上を目指した。

 しかし、直近の失業率は4.2%(2021年11月)と、コロナ禍前の3%台を上回る。先述の失業給付の特例加算が9月に失効した後も、人手不足を背景に求職者がより高い賃金を求め、仕事を選んでいるためだと指摘される。思い描いた通りに回復しない雇用は、バイデン氏にとって悩みの種だ。

 加えて頭が痛いのは、ここにきて新型コロナの新規感染者数が増加傾向に転じていることだ。共和党支持州での増加だけでなく、ブレークスルー感染も拡大。全米では12月22日時点で約16.5万人(週平均)とピーク時の7割に達した(ロイター調べ)。南アフリカ由来の新たな変異株「オミクロン株」が確認されたため、警戒感は一層高まる。せっかく経済再開に漕ぎ着けたのに再び、ロックダウン(都市封鎖)などを余儀なくされると、雇用回復にもブレーキが掛かりかねない。

Ⅱ.インフラ投資と供給網強靭化

 バイデン氏は3~4月に巨額の投資を伴う成長戦略を相次いで打ち出した。その2本柱が、「インフラ投資法案」と「ビルド・バック・ベター法案(米国家族計画)」だ。

 前者は老朽化する社会インフラの刷新を目的に、向こう15年間で2.25兆ドルを投じる計画。ところが共和党のほか、財政規律を重視する民主党中道派からも反対を受け、法案作りが難航。超党派による調整の末、総額1兆ドル規模に縮小した上で、11月15日にようやく成立した。

 具体的には、道路・橋の改修に1100億ドル、公共交通機関の刷新に390億ドル、高速通信網や電力網の整備に各650億ドルを投じる。加えて75億ドルかけて電気自動車(EV)の充電設備を全米で50万基整え、EVの普及を促す。

図表

インフラ投資法案に署名後のバイデン氏
(出所)バイデン氏の公式ツイッター(@JoeBiden)

 後者は、将来の競争に打ち勝つために家族や子どもたちへの投資が不可欠として、10年間で3.5兆ドルの巨費を投じる計画。しかし、その実体は気候変動対策に絡む補助金・税控除や、幼児の無償教育・子育て世帯の税控除など、民主党左派の要求を色濃く反映したものだ。このため、リベラル色を嫌う民主党穏健派が難色を示し、党内対立が激化した。

 「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)法案」とも呼ばれる、この法案作りが難航しているのは、歳入確保と引き換えに増税措置を盛り込んだからだ。伝統的に増税を嫌う共和党からの賛同は見込めず、バイデン氏は民主党の結束を図るしかない。予算規模を1.85兆ドルまで半減させてようやく下院を通過したものの、与野党勢力が拮抗する上院では民主党の重鎮議員を説得しきれていない。12月23日時点でも上院通過は見通せない状況だ。

 税制改革についてバイデン政権は、国際合意した法人税最低税率15%の導入や、自社株買いへの1%課税、年収1000万ドル超に対する所得税率引き上げなどを目指している。法人税率は当初、21%から28%への引き上げを目指したが、与野党から反発が強く断念した。

 これに対し、米中対立を背景にしたサプライチェーン(供給網)の強靭化はバイデン氏の目論見通りに進んでいる。就任早々の2月24日、半導体やEV用大容量電池、レアアース(希土類)、医薬品の重要4分野について、サプライチェーンを強化する大統領令に署名。中国依存度を低下させ、安定した調達体制を整えるのが狙いだ。

写真

新型コロナ対策について演説中のバイデン氏
(出所)バイデン氏の公式ツイッター(@JoeBiden)

 これを受けて米インテルは3月23日、アリゾナ州に200億ドルを投じて半導体新工場を建設すると発表。他社の半導体製造を請け負う「ファウンドリー」事業にも参入する。また、バイデン政権は巨額の補助金を武器に、外国企業の誘致も積極化。韓国サムスン電子は11月23日、170億ドルを投じて最新鋭の半導体工場をテキサス州に建設する計画を発表した。世界最大のファウンドリー、台湾TSMC(台湾積体電路製造)もアリゾナ州に工場を新設する。

 また、国内の半導体生産・研究の大幅強化に向け、5年間で520億ドルを財政支援する「米技術革新・競争法案」が6月8日、上院で可決した。政府主導の産業政策で半導体の研究開発や国内生産を加速、日本など同盟国との連携も強めて調達の安定化を図る方針だ。

Ⅲ.通商政策

 通商政策では、バイデン氏は制裁関税を連発したトランプ氏の対中強硬路線を基本的に引き継いだ。

 ただし、新たな焦点として浮上したのが人権問題だ。バイデン政権は7月9日、中国系14社を新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由に、安全保障上の懸念がある外国企業に指定。米国の製品・技術の輸出を事実上禁止した。さらに10月21日、中国を念頭に置いたサイバーセキュリティ製品の輸出規制案を公表。11月11日にはファーウェイなどを対象とした中国製通信機器を排除する法律を成立させるなど、対中圧力を一層強めている。

 その一方で、中国との対話の芽も残した。タイ米通商代表部(USTR)代表が10月8日、中国の劉鶴副首相と電話協議。トランプ前政権時代に対中輸出の拡大などを決めた米中合意の履行状況の確認とともに、未解決の懸案についても協議続行で合意した。その中身は明らかになっていないが、中国政府による不透明な産業補助金や知的財産権の侵害などが想定される。

 日本など同盟国を巻き込んで対中強硬政策を展開するバイデン氏だが、多国間通商交渉で米国がかつてのような主導的な役割を果たすには至っていない。典型的な例が、トランプ前政権が離脱した「環太平洋連携協定(TPP)」。オバマ政権下で副大統領としてバイデン氏はTPPを推進したにもかかわらず、復帰に慎重な姿勢を維持する。民主党の支持基盤である製造業の労働組合に配慮せざるを得ないようだ。

 米国の足元を見透かすように、中国は9月にTPPへの加盟申請を行い、事態は一段と複雑になっている。ほぼ同時期に米中対立の主戦場である台湾も加盟を申請し、日本はじめTPP 加盟各国は対応に苦慮している。「米国第一主義」を掲げたトランプ時代から決別を期待していた各国は、バイデン氏の通商政策に失望を隠せない。

Ⅳ.環境政策

 TPPとは対照的にトランプ前政権からの政策転換が際立つのが、バイデン氏の気候変動問題への取り組みだ。就任直後、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」への復帰を決定、2月19日に国連から正式に認められた。

 大統領選からバイデン氏は民主党左派やリベラル層の支持を視野に入れ、「2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロ(カーボンニュートラル)達成」を公約として掲げていた。就任後は新型コロナ対策や経済再建、人種問題と並んで気候変動対策を4大優先政策の1つに位置付け、2022会計年度(2021年10月〜2022年9月)では関連予算を前年度より140億ドル以上、議会に増やすよう求めた。

 また、バイデン氏は4月22、23両日、各国首脳に呼びかけて「気候変動サミット」を主催するなど、リーダーシップを発揮している。この場で米国が温室効果ガスの排出量を2030年までに2005年比で50〜52%に削減する目標を打ち出した。さらに9月21日の国連総会演説では、気候変動対策として2024年までに途上国への金融支援を年間114億ドルに倍増させるよう米議会と取り組んでいくと表明した。

 第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)では11月10日、中国と共同宣言を発出した。二酸化炭素(CO2)の20倍以上の温室効果があるとされる「メタン」の排出削減に向け、排出量の測定などで米中協力を表明したのだ。2022年前半には会合を開き、具体策を協議するとしている。

 このように環境分野では活発な動きが目立つバイデン氏だが、懸念材料も指摘される。上院で審議中のビルド・バック・ベター法案に気候変動対策として5550億ドル分が盛り込まれているのだ。この法案が成立しなければ、バイデン氏の推進する環境政策は大幅に後退しかねない。

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気候変動について発言するバイデン氏
(出所)バイデン氏の公式ツイッター(@JoeBiden)

Ⅴ.安全保障政策

 バイデン政権発足後、支持率のターニングポイントとなったのが、米軍のアフガニスタン撤収だ。7月8日、ホワイトハウスで駐留米軍撤退を「8月31日に完了させる」と正式に表明。すると8月15日、イスラム主義組織タリバンが首都カブールを制圧した。多くの人が国外脱出できずアフガン国内に取り残され、米国内外でバイデン政権への批判が強まる。

 それに加え、バイデン氏は撤退の理由を「これ以上米軍の若者に犠牲者を出さないためだ」と説明していたのに、8月26日には首都カブールの空港付近で、駐留米軍や群衆を狙ったとみられる爆弾テロによって米兵13人が死亡。支持率低下が加速した。

 米国がアフガン撤収を急いだのは、軍事的なリソースを東アジアに振り向けるためだとの指摘もある。その意味で今、バイデン氏のリーダーシップが試されているのが、台湾をめぐる対中政策である。

 中国の習近平政権は台湾統一の野心をあらわにし、武力行使も辞さない姿勢を示している。台湾はファウンドリー世界最大のTSMCを抱えるほか、地政学的にも東アジア安定にとって極めて重要だ。だから、米国は中国の野心的な行動を座視するわけにはいかない。

 バイデン氏の動きは、中国に「ディール(取引)」をたびたび持ちかけ、行動が予測不能だったトランプ氏よりは分かりやすい。まずは、同盟国を巻き込んだ形での対中包囲網の強化に着手。3月12日、日本、米国、インド、オーストラリアの4カ国首脳が安全保障や経済を協議する「QUAD(クアッド)」を開催した。2022年には日本で開かれる見通しだ。

 9月15日には米国、英国、オーストラリアの3カ国が、インド太平洋の安定に向けた新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設した。中国を念頭に3カ国の外交・安保担当高官協議を立ち上げ、米英がオーストラリアへの原子力潜水艦の配備を支援する。

 その根底にあるのは、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP=フォイップ)」という構想だ。航行の自由や法の支配などを柱にこの地域の平和と安定を目指すもので、権威主義の中国とは一線を画す。

 米国が12月9、10両日に主催した「民主主義サミット」はこうした戦略をさらに進め、対中包囲網を一層拡大する姿勢を鮮明にした。世界111の国と地域を招待した一方で、中国やロシアなどは含めず、「民主主義と専制主義の戦い」という構図が強まった。

 こうして見るとバイデン氏の対中強硬姿勢が目立つが、必ずしもそうではない。前出した通りメタン削減で中国との共同宣言を発出したほか、中国との対話の糸口を常に探っているようにも見える。

 11月15日にオンライン形式で開催された米中首脳会談の冒頭、バイデン氏は「わたしたちの責任は両国間の競争が衝突に発展しないようにすることだ。共通認識に基づくガードレールを設ける必要がある」と力を込めた。台湾や人権など幅広い分野で対立する米中関係がコントロールを失わないよう、意思疎通を図っていく姿勢を強調したものだ。

Ⅵ.バイデン氏に不足するリーダーシップ

 バイデン政権の主要政策を検証すると、必ずしも失政ばかりではない。それでも支持率が低迷を続けているのは、バイデン氏に大統領としてのリーダーシップが不足しているからではないかと思う。

 既に論じたように、足元の民主党内では左右対立が激化し、看板政策である「投資インフラ法案」「ビルド・バック・ベター法案」の規模縮小や成立の遅れをもたらしている。バイデン氏が党内をまとめきれていないため、議会戦術では共和党に足元を見られる。そうすると、「弱い大統領」との評価が高まってしまう。こうした悪循環に陥っているように見えるのだ。

 バイデン氏の不人気ぶりを裏付けるのが、11月に行われたバージニア、ニュージャージー両州知事選の結果だ。大統領選ではバイデン氏が制した前者においては、民主党候補が共和党候補に大差で敗北。民主党の牙城である後者でも、民主党候補が共和党候補に激しく追い上げられた。

 バイデン政権にとって看過できないのは、再挑戦に意欲満々のトランプ氏の存在感が増していることだ。日刊紙デモイン・レジスターとメディアコム・アイオワの共同世論調査によると、2024年大統領選で2人が再対決する場合、アイオワ州有権者の51%がトランプ氏に投票すると答え、バイデン氏は40%にとどまった(11月13日付米紙USAトゥデイ)。

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再挑戦を目指すトランプ氏
(出所)国立公文書館の公式ツイッター
(@President Trump 45 Archived)

 一方、バイデン、トランプ両氏の支持・不支持率を毎日集計している米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、就任直後(2月1日)はバイデン氏の支持率がトランプ氏を大きく17.2ポイントも引き離していた。だが、バイデン氏の支持率低下に伴い、その差はわずか1.5ポイント(12月1日)にまで縮まった。

バイデン政権誕生以降の支持・不支持率(各月1日)

図表

(出所)リアル・クリア・ポリティクス

 バイデン氏にとって新たな懸念要因となり始めたのが、インフレ圧力の高まりだ。コロナ禍からの経済再開で需要が一気に拡大。4 月以降、消費者物価が前年同月比で 3%以上も上昇した。10 月以降はさらに加速して 5%台に乗せた。原材料費の高騰や半導体不足、物流関連の労働者不足など、さまざまなボトルネックが絡み合ってサプライチェーンの混乱を引き起こしており、簡単には解消しそうにない。

 11月20日、米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、バイデン氏が2024年の大統領選に再選出馬する意向を関係者に伝えたと報じた。史上最高齢(79)を理由に1期4年で退くとの観測を打ち消したものだ。

 だがこのままでは、2022年11月の中間選挙でバイデン氏率いる民主党の苦戦は免れない。元々、政権与党に厳しい審判が下される傾向が強いにもかかわらず、バイデン氏支持率回復の材料が現時点では見当たらないからだ。もし中間選挙で大敗すれば、その後2年の残り任期はレームダック(死に体)化する可能性が強い。

PCEデフレーター(物価指数、前年同月比)

図表

(出所)米商務省


インタビュー

 発足1年を迎えるバイデン政権をどう評価するか、アジア太平洋の国際関係を専門とする法政大学グローバル教養学部の湯澤武教授に取材した(2021年11月9日)。

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法政大学グローバル教養学部の湯澤武教授
(提供)湯澤武教授

 湯澤 武(ゆざわ・たけし)氏 
 法政大学グローバル教養学部教授。
 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院にて国際関係学博士号取得(Ph.D.)、日本国際問題研究所研究員などを経て、2010年から現職。専門はアジア太平洋の国際関係。
 主な近著にInternational Security in the Asia-Pacific: Transcending ASEAN towards Transitional Polycentrism(Palgrave Macmillan,17年)(共著)、Japan's Search for Strategic Security Partnerships(Routledge,17年)(共著)など。

 ―バイデン政権が発足して1年。米国の対中政策をどう総括されますか。

 トランプ前政権誕生前の米国の対中政策には、抑止と統合(=中国を米国中心の秩序に組み込む)という2つの面がありました。しかし、オバマ政権末期~トランプ政権にかけて、米政府内において「中国を現行秩序へ取り込むのは無理」「中国は現状変更勢力」という見方が支配的になりました。このためトランプ前政権では、抑止あるいは封じ込め的な対中策が前面に出てきました。バイデン政権もその路線をある程度引き継いでいます。

 しかし、バイデン政権はもはや単独で中国を軍事的に抑止できないため、同盟国や友好国との軍事的連携をより強化したいと考えています。その一環として、QUADの強化やAUKUSの創設が出てきました。

 他方で最近では、対中制裁を緩和する流れも出てきています。その背景には米国内の経済界の高まる不満があります。特に米系グローバル企業の多くは、熾烈な国際競争を勝ち抜くうえで、中国の巨大市場でのシェア拡大は死活問題だと考えています。実際、ゴールドマン・サックスなど米金融大手は中国に積極的に進出し、米企業の中国半導体企業への投資も拡大しています。こうした現実をくみ取ってか、最近になってバイデン政権も中国との貿易協議を再開しました。

 ―安全保障政策ではQUAD やAUKUSなどアジア太平洋重視の姿勢を今後も強めていくのでしょうか。

 そう思います。米国が自国主導のアジア地域秩序を形成・維持するためには、中国に対して軍事力の優位性を確保することが大前提となります。

 このため、日本など同盟諸国にはこれまで以上に軍事的負担を求めていくと思います。ただ中国の軍拡が続く中、米中間の軍事競争が歯止めの効かない状況に陥っており、偶発的な軍事衝突の危険性も高まっています。抑止力の強化と合わせ、軍事的緊張関係が暴発しない仕組みを構築する必要もあります。

 ―中国による台湾統一をどう予測しますか。

 向こう数年以内、中国による台湾侵攻はないと思います。なぜなら、中国は現時点で「米国と戦争しても負ける」と考えており、それによって中国共産党の権威が失墜することを恐れるからです。

 ただし台湾問題は、中国にとっては一歩も譲ることができない「主権」問題です。米国の台湾への軍事的援助は国家主権への「介入」とみており、世論も敏感に反応します。台湾が「独立」への動きを活発化すれば、中国には威圧的な行動をとる以外選択肢はないでしょう。

 また今後、経済崩壊などによって一党独裁への国民的不満が高まるような事態が発生した場合、国内の求心力を高めるために、台湾に侵攻するのではないかという見方もあります。

 ―米国はTPPに復帰していません。一方で中国が加盟申請するなど事態が複雑になっています。

 ワシントンではTPP復帰は議論の俎上(そじょう)に上がってないと思います。国内の製造業を復活させるのが最優先だからです。

 これに対し、中国にはTPPを利用して国内の諸改革を断行したいという思惑があるともいわれます。習近平氏は構造改革を行う意思を持っていると見られますが、国内には国営企業を中心とした抵抗勢力も存在するといわれます。さらに、米国との貿易戦争によって経済的打撃を受けており、中国が新たな市場を求めるという意味でもTPPは重要です。

 習近平氏は内需と外需の拡大という両面作戦(=双循環)で経済成長を維持する戦略を描いていますが、中国が米国のいない隙にTPPに割って入り、ルールを自国に都合の良い形に書き換える可能性を懸念する加盟国(日本など)もいるので、一筋縄ではいかないでしょう。

芳賀 裕理

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※この記事は、2022年1月5日発行のHeadLineに掲載予定です。

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