2016年07月01日
内外政治経済
常任参与
稲葉 延雄
政府は日本経済の活性化を確かにするため、消費増税を先送りし、アベノミクスを再加速させる方針を打ち出した。実際、一般家計の消費の低迷振りをみると、ここで消費増税を実行すれば、何とか良くなってきた経済の改善をないがしろにしかねないと考えたのであろう。
確かに、最近のGDP(国内総生産)はさして高まっていないが、それでも人口減少の下で、労働市場では失業率が3.2%と二十年来の低い水準にあり、賃金も緩やかながら上昇している。日本経済はほぼ完全雇用状態にまで改善しているのである。そうであるのに、一般家計の消費態度は大変慎重である。
このような慎重さゆえに、これまでの技術革新の成果を新しい財・サービスの形で企業が家計に提供しようとしても、それらを積極的に購入して日々の生活をより豊かなものにしていこうとする、家計の前向きのダイナミズムがあまり感じられない。
家計が慎重さを拭えないのは、様々な将来不安を抱えているからである。最も重要なのは将来の生活設計であって、財政再建の行方が明らかではなく、本当に年金や社会保障に頼っていて大丈夫かという点である。
また、若いカップルにとっては、子育てがますます困難なものになった。仕事との両立の仕方や、さらに第二子をもうけてよいかどうかなど、ひどく悩んでいる。こうした若い世代に対しては、シニア世代も支援の必要性を痛感する。また、これまで比較的に消費に積極的だった団塊世代ですら、日々の生活が節約気味になっている。
こうした家計の将来不安を一つひとつ除いていく地道な対応を重ねていかなければ、家計が前向きなダイナミズムを取り戻し、より豊かな社会生活を築き上げていくことはできない。日本経済がさらに豊かになるための成長戦略は、アベノミクスのような旧来の手法の繰り返しではなく、人々の将来不安を除去する個別対策の積み重ねである。
稲葉 延雄