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行く先は運任せ「旅ガチャ」がヒット

=観光産業・地方創生の救世主?= 

2021年12月21日

地域再生

研究員
髙田 遼太

 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン」が、観光業界の需要回復期待に冷や水を浴びせた。その感染力の高さが報じられると、政府は2021年11月30日に外国人の新規入国を原則停止。2022年1月中の「GoToトラベル」再開にも不透明感が増す。しかしこうした苦境の中でも、観光産業復活につながるアイデアが生まれている。

観光産業を直撃したコロナ禍

 コロナ禍は世界の観光産業を直撃した。国連世界観光機関(UNWTO)によると、2021年1~9月累計の国際観光客数は、コロナ禍前の2019年同期比で76%減。現在も多くの国が外国人観光客の受け入れを事実上凍結している。

 日本も例外ではない。日本政府観光局(JNTO)によると、2021年10月の訪日外客数は2万2100人。コロナ禍前の2019年同月比で実に99%減、インバウンド需要は消失したままだ。

 国内観光消費額の76%を占める日本人の需要も低迷が続く。観光庁によると、2021年7~9月期の延べ旅行者数は2019年同期比61%減の6615万人。その結果、ホテル・旅館業の新型コロナ関連の倒産件数は過去2年間で116件に達した(帝国データバンク調べ)。

 とはいえ、ようやく光も差し込み始めていた。緊急事態宣言は2021年9月末までにすべて解除。全国の新規感染者も11月は1日平均139人にとどまった。10月の成田空港の国内線旅客数は約37万人。2019年同月比では38%減とコロナ禍前よりは落ち込んでいるが、3月以降は回復基調にあった。

成田空港の国内線旅客数
図表(出所)成田国際空港資料を基に筆者

 その矢先の「オミクロン株」ショック。海外からの観光客受け入れ再開に期待が高まっていただけに、業界関係者の落胆は大きい。

「旅ガチャ」が切り拓く新たな需要

 こうした危機が続く中でも、観光産業は進化を続けている。格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーションが企画した「旅くじ」もその1つだ。

 国内航空券の購入に使えるポイントを、ガチャ(=カプセル型自動販売機)で販売するのがミソ。1回5000円で6000円分以上のポイントをもらえるが、最大13ある行先のうち、どこに決まるか開封するまで分からない。若者の間では「旅ガチャ」と呼ばれ、SNSで話題になっている。

写真想定外のヒット「旅くじ」(大阪市内)
(提供)ピーチ・アビエーション

 自分の旅行先がどこに決まるのか―。そのドキドキを求め、人はガチャを回す。8月に大阪で販売を始め、東京や名古屋、福岡にも進出。12月3日時点で累計1万個のガチャが売れた。「1日1個売れれば...」と考えていた企画担当者の想定を大きく上回る数だ。「お客様からの要望を受け、今後のさらなる設置先拡大を社内で検討している」と広報担当者は語る。

 このカプセルには、コロナ禍で疲弊した観光産業が復活を目指す上で、有益なヒントが詰まっている。その1つが、旅先で地元の人との触れ合いを誘発する仕掛けだ。

 カプセルに入ったポイント引換券には、旅の「ミッション」が記されている。札幌行きには「カニを苦労してむいて、隣の人にあげてきて!(手袋で)」、石垣行きなら「島の人に教えてもらって「オニササ」作りをマスターしてきて!」...といった具合いだ。ミッションをクリアして旅行記を専用のSNSに投稿すると、抽選で3000円相当のポイントが当たる。

「関係人口」拡大が地方創生のカギに

 旅ガチャが演出する、こうした「偶然の出会い」こそ、観光産業に新たな需要を生み出す可能性を秘めていると思う。そのカギとなるのが、「関係人口」の拡大だ。

 関係人口とは、一時的な観光・出張ではなく、地域や住民と継続的に関わる人口を指す。いわば「その地域のファン」であり、総務省は地方創生の新たなキーワードとしている。

 従来の地方創生は、大都市圏から地方への人口移住(=「定住人口」の拡大)を目指してきた。しかし、東京一極集中の構図はなかなか変わらない。そこで「地方と関わる人」を増やすという、地域活性化策が脚光を浴びているのだ。

「関係人口」のイメージ図
図表(出所)総務省を基に筆者

 主要な観光スポットを目当てに来る旅行客は、一度きりの訪問(=交流人口)となってしまう可能性が高い。

 これに対し、地域や地元住民に愛着を持った人は、継続的に地域を訪ねてくれる。たとえ足を運ばずとも、ふるさと納税や地場産品のオンライン購入などを通じ、継続的に地元経済に貢献してくれる。関係人口の拡大は容易でないが、長い時間軸では観光産業に利益をもたらす。

 どうすれば、この関係人口を増やせるのか。国土交通省の「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」は、2021年3月の最終とりまとめで「人と地域との偶然の出会い」がポイントだと指摘する。

 このセレンディピティー(Serendipity =未知のものとの偶然の出会い)こそが、関心のなかった人と地域とのつながりを育み、その関係性を継続させるきっかけとなるからだ。行き先さえも運任せの旅ガチャは、まさにこうした交流を誘発する可能性が高い。

 旅ガチャが成功した背景には、人々の「自粛疲れ」もあるだろう。潜在的な観光需要自体は、むしろコロナ禍前より膨らんでいる可能性も指摘される。新型コロナの影響が薄れると、抑圧されてきた旅行熱が一気に解き放たれる。その時、どうすれば一過性のブームではなく、関係人口の増加に結びつけられるか。これからが観光産業は知恵の絞りどころ。出て来い、第2、第3の旅ガチャ!

髙田 遼太

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