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コロナ禍を乗り切った町並み〔大洲市〕(下)

 次なるストーリーを模索《新しい需要》第2回

2023年10月05日

地域再生

編集長
舟橋 良治

 2019年から今年6月までに改修された愛媛県大洲市の古民家などは34棟に上る。このうち市内に点在する古民家26棟31室は分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」となった。歴史的建造物を使ったホテルなどを各地で展開している事業会社「バリューマネジメント」(大阪市)が経営している。

昔ながらの利用を再現

 ホテル以外にもカフェなど約20事業者が開業。1階に各種ショップなどの施設、2階に「NIPPONIA HOTEL」の客室を整備するなどして昔ながらの町並みを意識した利用形態を再現。内外の観光客を数多くひきつけ、雇用の拡大にもつながっている。

 ちなみに、このホテルは1泊2食2人で7万円が中心的な価格帯。高級旅館レベルに設定されている。オープンに向けては外国人旅行者に期待したが、新型コロナ感染症の拡大に見舞われて思惑が外れた。しかし、「海外旅行ができなくなった日本人旅行者が来てくれた」という。新たなコンセプトの高級ホテルとして注目され、「稼働率を維持できた」と振り返る。今後はインバウンドの増加に期待を寄せている。

20231005_02.jpg古民家を改修したホテル(左)【7月17日、大洲市】古民家ホテルの寝室(右)【7月18日、大洲市】

大きな成果

 こうした取り組みが大きな成果を生んだ。「持続可能な観光地」文化・伝統保全部門で今年3月、世界1位に選ばれたのだ。

 「持続可能な観光」は将来の地域環境や経済社会に配慮しながら取り組む観光を前提としており、オランダの認証団体「グリーン・デスティネーションズ」が環境保全や文化財保護などに基づいて世界の100地域を毎年発表している。

 「環境保全・気候変動対策」など6部門あり、このうち「文化・伝統保全」部門で大洲がトップに輝いた。歴史的な古民家の再生に取り組んできたからこそだ。

スペイン人研究者の眼

 大洲をトップに輝かせた立役者は、キタMのディエゴ・コサ・フェルナンデス建築文化研究所所長だ。

20231005_03.jpgキタMのディエゴ・コサ・フェルナンデス建築文化研究所所長【7月18日、大洲市】

 スペイン出身で母国やスウェーデン、フランスなど世界各国の河川輸送と町の発展、建築文化について研究。法政大学大学院在籍中に大洲市を訪れ、肱川流域における木蝋、製糸産業、城下町や集落の関係性を研究テーマにした。

 そうした中で、古民家の活用を通じて町を維持する取り組みを海外に紹介。この取り組みが文化・伝統を守る、持続可能な観光と評価された。ストーリー仕立てで紹介したのは、こんな内容だ。

 観光を目的とした古民家の改修に関しては、地元で生まれたアイデアに基づいて周りの人々、さまざまなステークホールダーと一緒に考え、もともとあった材料を使う。改修は大規模なデベロッパーを使わず、地元の大工に依頼する。大工がノウハウを持たない場合はそれを伝え、改修の仕方を伝承する。こうした取り組みが、持続可能な観光と評価されたのだ。

二つのバブル

 フェルナンデスさんが次に海外発信するのは、観光客とホテルなど事業者、地元住民が地域にあつれきを生まないための交流プラットフォームについてだ。

20231005_04.jpg大洲市を楽しむ観光客【7月17日、大洲市】

 観光客が多数訪れると地元の人々との間にしばしば壁ができてしまう。フェルナンデスさんは「(両者が)別々の二つのバブル(二つの異なる価値観のグループ)に入り、ぶつかってしまう」状況を懸念。これを避ける努力をしないと持続可能な観光が難しくなってくるという。

岐阜・白川郷から視察

 岐阜県・白川郷から大洲市に視察が来たことがあった。世界遺産に登録されて観光客が押し寄せたため一時、地域生活が維持できなくなり、コミュニティーが分断された事態を受けてのことだった。

 大洲市も住民すべてが観光産業に関係しているわけではない。観光客がうるさいとクレームを言う人がいれば、昔のにぎやかな大洲を思い出して喜ぶ人もいて、さまざま。調和が求められるが、受け入れの準備ができていないと不満が募るのが普通だろう。

20231005_05.jpg昭和レトロミュージアムの展示【7月18日、大洲市】

町への誇り

 幸い、大洲市が「世界一」になりメディアでも報じられると、こうした外部の評価に喜びや誇りを感じ、町づくりに協力する層が増えてくる。フェルナンデスさんは実感している。

 そんな流れを踏まえてキタMは、市役所やホテル、ショップなどの事業者、地元の人々が交流するプラットフォームの構築に力を入れ、勉強会を月1回開催している。

 単なる説明会ではなく、さまざまなワークショップ、議論するスペースや機会を作り、情報を共有する。そうした中で新たなアイデアが出れば共有していく。

 フェルナンデスさんはこうした取り組みを、地元住民を交えた新たな戦略として海外にアピールしていく考えだ。交流の効果は既に現れている。

深まる理解

 古民家再生事業が始まる前にあった火事で、空き家に延焼して多くの家屋が焼失した。

 そんな記憶が残る中、古民家を改修してオープンするホテルを近隣住民に披露する際には、最新の火災警報装置や防火設備を説明。延焼の懸念がないことを伝えると、「住民は安全性が高まったと感じ、ホテル用の新たな古民家を紹介してくれる人もいる」(キタM企画課)。

 住民との交流を通じて観光事業への理解が深まったあかしと言えそうだ。

20231005_01.jpg大洲市住民が手作りした土産物【7月18日、大洲市】

ようやくスタートラインに

 これまでの歩みを振り返り、二宮隆久市長は「町家等の歴史的建造物の保全活用が可能となり、ようやくスタートラインに立った」と話す。

 しかし、人口の減少に歯止めがかかったわけではなく、移住者や雇用の増加が課題。「『住んでよし』『訪れてよし』『働いてよし』の持続可能な観光地を目指していく」と気を引き締めていた。

20231005_06.jpg昭和を思い起こさせる町角【7月18日、大洲市】


《新しい需要》

 人工知能(AI)やロボット、コミュニケーション技術の飛躍的な発展は「第4次産業革命」とも言われています。さらには、地球環境対策や新型コロナウイルス感染症などもあって社会や人々の生活が大きく変化。働き方改革の推進、喜びを感じつつ働ける環境の創造に関心が集まるなど時代の節目を迎えています。これまでも新たな製品やサービスが生まれ、それらの需要が社会や生活の変化をけん引してきました。第4次産業革命を迎えた今、先端分野だけでなく、私たちの足元に起きている新たな動きに着目し、「新しい需要」として紹介していきます。

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舟橋 良治

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※この記事は、2023年9月26日発行のHeadLineに掲載されました。

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