「老いる東京」への備えを
首都東京は日本の「最先端」が集まる。東京の「いま」は、日本の「未来を映す鏡」とも言えるだろう。今年の成人式を伝えるニュースで、「新宿区の新成人の半数が外国人」と知り、日本人の若者がまばらな近未来の街角が頭をよぎった。若者の減少と高齢化は、東京でも加速していく。老いる街・東京の課題を考えた。

人口動態(イメージ)
「率」ではなく「数」で見ると
東京都の65歳以上の人口データを確認してみよう。2020年は都民人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は22.8%で、全国平均28.7%を5.9ポイント下回る。全国47都道府県で2番目に低い。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、今後、東京都の高齢化率は50年までに29.6%まで上昇する見込みだが、その時の全国平均は40.3%で、差はむしろ拡大するとみられている。
では、東京の高齢化はそれほど深刻ではないのか。ここで忘れてはならないポイントは、東京は人口が突出して多いことである。さらに今後、全国の人口減少が本格化しても東京の人口は減らない。2050年の東京都の人口は、現在とほぼ同じ1440万人と推計される。65歳以上の高齢化率29.6%で計算した高齢者数は約426万人で、現在より100万人以上も多い。一方、50年の高齢化率が49.9%と最も高い秋田県は28万人にとどまる。東京には秋田県の15倍の高齢者が住むことになるのだ。
人数に着目すれば、高齢化率ではわからない「老いた東京」の深刻さ浮かび上がる。

2050年都道府県別65歳以上人口率(左)と同人口数(右)
(出所)総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」をもとに作成
高齢者の支えが心もとない
東京の高齢化がもたらす問題の兆候は既に表れ始めている。その典型が、医療や介護、福祉など高齢者を支える施設やサービスの不足である。介護関連施設の開設の遅れや計画凍結の動きが相次いでいる。東京都でも、将来の高齢者増加に備えて介護関連の施設整備やサービスの拡充が進められているが、計画通りに進捗(しんちょく)していないようだ。原因は「建設費の高騰」「用地確保の困難さ」「介護人材の不足」などさまざまだ。
高齢者向けビジネスは、今後需要が増える「成長産業」と目されてきたが、近年の円安などによる資材高騰や、若年者の減少を受けた人手不足などの「供給制約」によってブレーキがかかっているのが実情だ。今後も高齢者向けの施設やサービスの拡充が滞れば、多数の高齢者を支えきれない事態を招く。
単身の高齢世帯の増加も確実視されている。実際、1980年に約10万世帯だった65歳以上の単身世帯は、2020年には80万世帯超に増加した。単身の高齢者を地域社会で孤立させない取り組みが求められる。
不足する「多死社会」のインフラ
高齢者の多いコミュニティーは「多死社会」でもある。必然的に火葬場の利用は増えていかざるを得ないが、東京では既に火葬場不足に陥っている。東京23区には公営の火葬場はわずか2カ所。民営を含めても9カ所にとどまる。東京では遺体の火葬は4~7日待ちが常態化し、10日以上待たされることもあるという。火葬までの日数が伸びれば、遺体の保管料などの負担がかさむ。
民営の火葬料金が9万円前後まで高騰していることも、利用者を困惑させている。利用料が約4万円の公営は空きが少なく、民営を使わざるを得ない人が多いことから東京都は今年4月、2万7000円の助成金を設けたが、それでも公営より負担は大きい。
火葬場を迷惑施設とみなす気持ちは理解できるが、それにしても新設のハードルが高すぎるのではないか。誰であれ必ず最期を迎え、火葬場のお世話になる。多死社会にふさわしいインフラの整備に向け、住民への説明と啓発の努力が欠かせない。
やさしい街づくりの必要性
高齢者に寄り添った「やさしい街づくり」も大事な観点だろう。例えば、横断歩道の歩行者用信号は、秒速1メートルで歩くことを前提に青信号の時間が設定されているという。高齢者の多い場所では長めの時間に設定する自治体が増えていると聞くが、渡り切れずに中央分離帯に取り残される高齢者を目にする。まだまだ配慮が足りないのではないか。

標識や案内が見えにくい、歩道の段差が怖いといった高齢者の不満や不安は後を絶たない。「高齢者に優しい街づくり」を進めれば、障がい者や日本に不慣れな外国人観光客にとっても快適な街を実現できるだろう。誰にとっても住みやすく、やさしい街を目指すことが大切だ。
新たな「高齢者観」
高齢者を一律に「年寄り扱い」しないことも重要ではないか。制度上は65歳になると高齢者と呼ばれるが、かつての「人生50年」から今は「人生100年」とも言われる。私見だが、「高齢者は80歳から」にしてもいいのでは、と感じる。年齢だけで「高齢者=社会的弱者」と決めつけるのではなく、元気な高齢者には引き続き活躍していただき、社会を支える役割を担ってもらいたい。
65歳以上の高齢労働者数は、ここ10年で684万人から914万人に増加した。高齢者を経験豊富なシニアの「指導役」として再雇用し、成功している企業も多い。デジタル化の難しい知恵を後世に伝える意義は大きい。
要介護者と元気な高齢者の二本立て政策
支援が必要な高齢者がいる一方で、元気な高齢者も少なくない。大切なのは年齢で機械的に区分けするのではなく、各人の状況に合わせた支援や助成の施策を立案・推進することである。
こうした施策を支えるインフラとなりうるのがマイナンバーカードだろう。技術的には、各高齢者が独居か家族と同居かなどを把握でき、マイナ保険証を通じた医療データから健康状態も推定できる。プライバシー保護と本人の意思尊重を前提に、見守りが必要な独居老人や健康に不安を抱える高齢者に適切なサポートを提供する態勢を整えたい。元気な人には地域活動への参加や、仕事の紹介など社会とつながる糸口を提供することも有益だろう。
「老いる東京」に備えた取り組みは、支援が必要な人を取り残さず、元気な人には活躍の場がある「全員参加型社会」を日本全体で実現する推進力になるのではないか。

《おさらい》
Q 東京の高齢化は何が問題なのか。
A 高齢化率だけ見ると東京は全国より低いが、人口規模が大きいため高齢者の「数」が突出して増える。2050年には高齢者が約426万人と現状より100万人以上増える見込み。他県とは桁違いの高齢者数が最大の課題となる。
Q 超高齢社会でどのようなインフラが不足しているか。
A 建設費高騰、介護人材不足などにより介護施設の整備が遅れ、高齢者支援の体制が追い付いていない。火葬場の不足も深刻で、東京では火葬待ちが4~10日以上となるケースも。多死社会への備えを迫られている。
Q 東京が目指すべき高齢社会の方向性は?
A 高齢者を一律に「弱者」とせず、元気な高齢者に活躍の場を提供し、支援が必要な人には的確にサポートすることが重要。マイナンバーなどで高齢状況を把握し、地域での見守りや就労支援などを強化し、全員参加型のやさしい街づくりを進めるべきだ。
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帯川 崇