「フェイクニュース」対策の最前線
《この記事で分かること》
Q フェイクニュースが広がるのは、なぜ?
A 明確な悪意を込めた偽情報が流布し、その情報を真実だと思ったSNS利用者が善意で拡散するのも一つの大きな要因になっている。
Q どんな対策が取られているのか。
A 人手で行うファクトチェック、最新技術を使った判定も行われている。メディア教育に力を入れている国もある。
Q 安心して情報に接することができる時代が来る?
A 偽・誤情報の根絶は難しく、「いたちごっこ」。最終的には情報に対する感度を高め、どれだけ真剣に向き合うかが、一人ひとりに問われる。
明確に悪意が込められた「偽情報」。悪意がない「誤情報」も含めたフェイクニュースは、現代社会の根幹を揺るがしかねない。コロナ禍で紙製品が不足、原発処理水の放出で魚が大量死、米大統領選への影響を狙うといった深刻な偽情報や誤情報は今や珍しくない。事態の深刻化を受けて、手作業のほか、最新技術を使ったファクトチェック、さらには幼少期からメディア教育に力を入れる国もある。フェイクニュース対策の最前線をリポートする。
偽情報が善意で拡散
フェイクニュースは一部の怪しげなサイトに限った話でない。スマホでの日常的なアクセスが当たり前となったSNSにもまん延している。「自分は大丈夫」と思っていても、気づかないうちに毒されているケースは多い。まずは、偽情報や誤情報の実態を概観しておきたい。
2016年、熊本地震の発生直後に「動物園からライオンが逃げた」という偽情報がSNSで拡散した。実際にはライオンは逃げておらず、画像も海外の別事件のものだったことが後に判明。投稿者は業務妨害の容疑で逮捕される事態となった。偽情報が善意で拡散されてしまった例として記憶している人も多いだろう。
新型コロナウイルス感染症がまん延した2020年、トイレットペーパーを中心とした紙製品の買い占めが起きた。「中国の工場が停止し、紙製品が不足する」との誤情報が拡散したためだったが、実際には紙製品の生産は国内が中心で供給に支障はなかった。未知のウイルスへの不安感を背景に広く拡散したと推測される。1970年代のオイルショック時の混乱を連想した面があったのかもしれない。
米大統領選に影響?
「魚が大量死している」「放射性物質が除去されていない」―。2023年8月、福島の原発処理水の海洋放出に関連した誤情報が拡散した。国際原子力機関(IAEA)は処理水放出が科学的根拠に基づき妥当であるとしていたにもかかわらず、海外メディアでも誤情報が報じられ、日本産海産物の輸入制限や風評被害拡大が懸念される事態となった。
2016年の米国大統領選挙。「ローマ教皇が(候補者の)トランプを支持している」とする偽情報がSNSで数千万回シェアされた。こうした偽情報は選挙結果に影響を与えかねない。昨今の日本の選挙においても真偽不明な陰謀論のようなフェイクニュースが流布し始めており、毒されないことに注意が必要だ。
フェイクニュース(イメージ)
新しいタイプの戦争
「毒される」という意味では、スマホの「おすすめ記事」は要注意だ。いつのまにか自分の主張に近い都合のよい情報が送られ、反対意見が遠ざけられてしまう。このような状態はフィルターバブルと呼ばれ、よほど気を付けないと反対意見を無条件で拒絶しかねない。
フィルターバブルを意図的に悪用した認知戦が横行、陰謀論が広がっているとの指摘もある。こうなるともはや洗脳だ。国家をバックに持つ場合には、新しいタイプの戦争と言ってもよいだろう。こんなことで世界の分断が進むとしたら...なんとも恐ろしい話だ。
最新技術を活用
情報の正確性を保つための古典的な対策としては、専門家のチェックにより歯止めをかけるのが一般的と言える。ニュースメディア同士がファクトチェックで連携したり、第三者である独立団体が検証したりする。さらには、誤情報を自動的に拡散するボットなどのアカウントを規制するのも有効。特定の個人や団体に対する名誉棄損(きそん)や社会的に影響の大きい悪質なものに対しては、法的規制も必要となるだろう。
画像や動画に関しては、技術的な対策検討が進んでいる。代表的なのは、米国アドビ社などが推進している「C2PA」と呼ばれる規格だ。撮影された日時や場所、撮影者など編集履歴の改ざんが難しい情報をメタデータとして埋め込むもので、認証された機器によって撮影された画像や動画であることを証明する。誰でも閲覧できるようにして、コンテンツの信頼性と透明性の向上を目指している。
コンテンツの改ざんを防ぐため、ブロックチェーン技術の活用も期待される。ブロックチェーン技術は現在、暗号資産のような重要情報の流通過程に導入されているが、一般的なニュースにも未改ざんを証明する技術として利用する時代が来るかもしれない。
求められる冷静な対応
フェイクニュース対策に生成AI(人工知能)を活用できないだろうか。例えば、対策のひとつであるファクトチェックでは人の判断に依存する部分が大きいのが現状。チェックすべきニュースが増えるにつれ、人海戦術では限界となることは明らかだ。AIを活用することで、コンテンツの正しさや改ざんの有無などを自動判定できるかもしれない。
しかし、AIが誤情報に毒されているという指摘もある。AIはフェイクニュースを含む膨大な情報からから学んでいるからなのだが、改ざん履歴の有無であればAIが判定できるかもしれない。
ファクトチェック(イメージ)
フィンランドを見習う
さまざまな対策が取られているが、重要なのはニュースの受け取り手がユーザーとして情報の正誤を見抜く力をつけることだ。メディアリテラシー教育が重要となる。例えば、目にした画像からオリジナル情報にさかのぼって事実を確認する逆画像検索などの知識やテクニックが必要かもしれないが、何よりも大事なのは「センセーショナルな情報に接したときの冷静な対応」に尽きる。
フィンランドはメディアリテラシー教育に力を入れており、フェイクニュース対策の先進国と言われている。なぜか。フィンランドはロシアと1300キロもの国境で接し、歴史的な教訓から軍事的な圧力やプロパガンダに敏感な国民性という背景がある。
メディアリテラシーをめぐる教育はどんな内容か。まずは、幼児期に大人と一緒にパソコンを使うなど、早い時期からITへ慣れることから始まる。その後、9歳くらいからはコンテンツについての解釈や情報源にもきちんと目を向けることを教わり、13歳になると情報の信頼性や社会に与える影響までも考えるよう教育されるという。
・情報の発信元は信頼できるか
・画像におかしな点、不自然な点はないか
・著者は実在するか
・他でも同様なニュースが確認できるか
対して日本ではどうだろうか。フィンランドに見習えることは取り入れて、フェイクニュースに毒されない国でありたいと思う。
最後は人
フェイクニュースに対する対策を強化しても、その網をかいくぐってネット世界に流布するのは避けられない。根絶は難しいのが現実で「いたちごっこ」になってしまうのだろう。結局、「最後は人」。一人ひとりが情報に対する感度を高め、どれだけ真剣に向き合うかにかかっている。
フェイクニュースに毒されない明るい未来(イメージ)
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