経済格差とポピュリズム
主要先進国で大衆迎合主義(ポピュリズム)が台頭し、一部の国では政権を奪取する勢いを見せている。その要因として、経済格差の拡大を指摘する見方がある。ポピュリズムはどのような理由で支持され、勢力を拡大しているのか。その実態と今後の影響を考察する。
「見放された人々」が支持
ポピュリズムの台頭は、ある意味で民意を尊重した結果であり、民主主義であるのなら甘受すべき現象だ、と考える人もいるだろう。確かに民主主義は有権者に支持された政党・政治家が政権を担う仕組みだ。だが、民主主義がこれまで歴史的に多くの「失敗」や「暴走」を繰り返してきたことを忘れてはならない。近年のポピュリズムの発生要因を分析し、その問題点を提示することで、民主主義のあるべき姿を浮かび上がらせたい。
欧州におけるポピュリズム政党への支持率(出所)
スウェーデンのシンクタンクTIMBROのデータを基に作成
欧米などの先進国でポピュリズム政党が勢力を伸ばす理由は、移民受け入れへの反感などさまざまあるが、中でも大きな要因と見られるのが経済格差の拡大である。その傍証として、代表的な格差指標であるジニ係数を使った分析を紹介しよう。この数値が高い国、つまり格差の程度が大きい国ほど、「伝統的な政党に見放されたと感じる人」の割合が高い傾向が見て取れる。富が超富裕層に独占され、「働けど働けど、わが暮らし楽にならず」と感じる低中所得者層ほど、つらい現状の打破に期待してポピュリストの候補に投票する傾向が強いことが示唆される。
格差と既存政党への失望率の関係性
(注)ジニ係数は一部の国を除き2022年時点、縦軸の割合は2025年時点
(出所)経済協力開発機構(OECD)とフランスの調査会社Ipsosのデータを基に作成
多くの先進国では、インターネット革命による生産性向上や国際分業体制の深化で、製造業などで働く中流層の仕事が奪われた。こうして生まれた新たな貧困層の出現が、ポピュリズムの伸長を助長していると考えられる。特に米国では、大企業や富裕層の富の恩恵が貧困層にも滴り落ちて国全体が豊かになる「トリクルダウン」という経済理論を支持する考え方が根強い。このような所得の再分配を市場機能に委ねるべきだとする新自由主義的な気風が、所得・資産の二極化を助長したとみられる。国全体の所得総額が大きく伸びる一方で、最低所得層の実質賃金はこの数十年間変わらない。こうした過酷な現実によって経済格差の拡大は加速したのである。
ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ教授(米コロンビア大学)は、著書「資本主義と自由」(注1)で、「不平等対策を行わなかった国でポピュリズム政権が誕生した」と指摘している。学術研究に特化したAI(人工知能)を用いた集計では、ポピュリズムを扱った研究の7割以上が格差を要因に挙げていることがわかった。経済格差がポピュリズム台頭を後押しする一因であることを示す一つの証左と言えよう。
進む格差の「固定化」
事態をさらに難しくしているのは、ポピュリズムを招く経済格差が「親から子へと引き継がれる」性質を持つことである。格差の固定化はポピュリズム支持層を固定化させるため、ポピュリズム的な政治風土の一掃はますます困難になる。
米国の小説「偉大なるギャッツビー」(1925年)のタイトルにちなんで元米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長のクルーガー氏が提唱した「グレート・ギャッツビー曲線」を見てみよう。この曲線は、経済格差拡大の度合い(富裕層の所得シェア)が上がるほど、貧困層の中で「子の所得が親のそれを超える確率が減少する」という認識が強まる傾向を示している。曲線の右上に行くほど、「貧困の固定化」が進んでいる。
確かに、高所得な親は子供に恵まれた高等教育を受けさせ、多額の相続も行うため、裕福であり続けやすい。一方、貧困層の子供が高等教育を受けて高収入の職業に就き、貧困から抜け出すのは容易ではない。所得や資産の再分配など抜本的な格差対策を講じない限り、格差とポピュリズムの土壌は世代を超えて根深く残りうるのだ。
グレート・ギャッツビー曲線<2020年時点>
(出所)OECDのデータを基に作成
ちなみに米国はこの曲線の中央あたりに位置する。「アメリカン・ドリーム」の発祥地・米国も、現在では親世代の経済力で子供の将来が決まりがちな社会に変容したということだ。現代の米国ではもはや、「偉大なるギャッツビー」の主人公のように貧困層の出身者が一代で財を成し、アメリカン・ドリームを実現することは難しい。曲線を見る限り、アメリカン・ドリームよりデンマーク・ドリームを目指したほうがよさそうだ。
原因や解決策巡り激論
主流派経済学は、政府による介入は最小限にとどめ、市場メカニズムに任せることで、効用が最大化するという新自由主義的な考え方を重視してきた。もっとも、格差拡大は政治的にも経済的にも社会を不安定にすることから、格差是正に向けた取り組みが学術的な観点から議論され始めている。
ピーターソン国際経済研究所で2019年に行われた大規模カンファレンス「格差と闘え」では、オリビエ・ブランシャール・米マサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授(元国際通貨基金チーフ・エコノミスト)やグレゴリー・マンキュー教授(米ハーバード大学)、ダロン・アセモグルMIT教授(ノーベル経済学賞受賞)といった第一線の経済学者が、格差是正を巡り激論を交わした。
例えば、高等教育への補助金や最低限の生活保障として無条件で現金を支給する「ベーシック・インカム」制度の導入、相続税の引き上げ、競争政策(反トラスト法や独占禁止法)や資産課税の強化など、格差解決策が検討された。ブランシャール氏らは、「格差の是正策として、『市場の自由化』を挙げた提言は一つもなかった。『市場の自由化』は、格差是正のための解決策ではなく、格差の原因とされた」と述べた。さらに、もし新自由主義が支持されていた10年前にカンファレンスが行われていたら「このような結論にはならなかっただろう」と指摘した。
新自由主義修正の議論を主導するのが、スティグリッツ氏だ。そもそも新自由主義の理論的支柱である新古典派経済学の前提の誤りが経済格差を生んだと主張している。前提とは「競争的な市場」「リスクに対する保険市場の存在」「情報の完全性」である。
このほか、経済的右派による「高所得は努力や研さんに対する正当な報酬であり、それを再分配するのは経済的自由への侵害だ」とする主張にも疑問を呈する。例えば著書で、次のような主張を展開している。
「高所得は親や祖父母世代から受け継いだ財産に由来していることが多い。これらは、奴隷や植民地からの搾取、見過ごされた独占などによって築かれたケースもあり、現代の高所得を不可侵なものとするだけの道徳的正当性は見いだせない」
「偶然」ではなく「必然」?
以上の分析や考察から、ポピュリズムの世界的な台頭は単なる偶然の一致ではなく、主要先進国の経済システムの限界が生んだ経済格差が招いた「必然」と見ることができよう。
では、ポピュリズムの伸長は受け入れて良いのだろうか。たとえ民意に沿った政策であっても、ポピュリズム政権が有権者受けを狙った近視眼的な政策を続けると、中長期的な経済パフォーマンスを低下させるリスクが指摘されている。
独シンクタンク・キール世界経済研究所のマヌエル・フンケ氏らの研究「ポピュリスト指導者と経済」(2023年)は、ポピュリズムの経済学的帰結を知る上のヒントになる(注2)。ポピュリズムに基づく政策を実施すると、15年後の経済パフォーマンス(1人あたり国内総生産=GDP)は、実施しない場合より10%悪化するという。この研究は、1900年から2020年までの長期データに基づき、世界のポピュリズム政権による経済政策を包括的に評価した。他の文献でも、ポピュリズム政権は拡張的な財政政策で短期間の好景気を演出する一方、持続不可能な政策の継続によって「景気悪化を招いて政権を失う」というメカニズムの存在が指摘されている。
格差是正へ英知結集を
つまり、民意を反映していても、人気取りの拡張的な経済政策を続ければ経済的コストは大きくなるのだ。ポピュリズム政権が、中長期的なコストを有権者に説明せずに近視眼的な政策を連発するようなら、政治的・道徳的な正当性にも疑問符がつく。本当に国民のためを思った政策ではなく、自らの政治的立場を守る保身策の可能性が高いからだ。
ポピュリズムが主要先進国の経済システムの限界に起因し、その経済的損失も小さくないとすれば、ポピュリズムに単なる不平不満を述べるだけでなく、経済格差という原因の緩和と経済・社会システムの正常化に向けた議論を加速させるべきだ。ポピュリズム政権を支持する「取り残された人々」の声にも耳を傾け、より良い社会システムの構築を目指す視点が欠かせない。
最近話題のAI革命も、既存の労働者の所得格差を拡大させるリスクが指摘される。格差を放置しないためいかに英知を結集するか。学界の専門家のみならず、社会全体での議論の深化と、政治による格差是正策の実行が急がれる。
(注1)ジョセフ・E・スティグリッツ「資本主義と自由」(The Road to Freedom: Economics and the Good Society)、東洋経済新報社、2025年
(注2)Funke, Manuel, Moritz Schularick, and Christoph Trebesch (2023). Populist Leaders and the Economy, American Economic Review, 113(12), pp. 3249-88.
《おさらい》
Q ポピュリズムはどのような人々に支持されているのか。
A 経済格差が拡大した結果、社会的に見放されたと感じる低中所得者層が既存政党を打破すべく、ポピュリズムを支持している。
Q 機会の平等があれば、経済格差は一代で終わるのか。
A 機会の平等があったとしても、多額の相続や高等教育の有無によって、経済格差は親から子に引き継がれる。このため、複数世代にわたって格差は固定化してしまう。
Q 経済学ではどのような議論がされているのか。
A 新自由主義が支持されてきた過去数十年間とは異なり、社会を不安定化させる経済格差が経済学者の間でも問題視されている。ポピュリズムに基づく政策が行われた場合、将来的な経済パフォーマンス悪化を指摘する研究もある。
タグから似た記事を探す
記事タイトルとURLをコピーしました!
小林 悟