2016年12月27日
最先端技術
研究員
平林 佑太
2006年、京都大学の山中伸弥教授の研究グループがiPS細胞(万能細胞)を発見してから10年。皮膚や血液の細胞から作られるこの「万能細胞」の登場により、パーキンソン病などの難病患者に対する再生医療の確立に向けて研究開発が加速した。一方で、複雑なヒトの生体組織構造を体外で再現するためには、乗り越えなければならないハードルがまだ沢山ある。
羽田空港国際線ターミナルから多摩川の対岸に、「ライフイノベーションセンター」(川崎市殿町地区)が見える。今年8月にオープンした地上4階建てのこの施設は、再生・細胞医療の研究・開発拠点に位置づけられ、国内外の企業や大学発ベンチャー等が入居する。リコーもその一つであり、再生医療や薬効試験へ応用可能な3次元ヒト組織体創製を目指した、精密3D細胞プリントの基盤技術開発を進めている。
ライフイノベーションセンターの外観
リコーはパソコン用プリンターで培ってきたインクジェット技術を応用し、ヒトの細胞を飛ばして生体組織構造を再現する「バイオ3Dプリンター」の開発を急いでいる。
ヒトの体は約60兆個もの細胞で構築される。この細胞を含む細胞インクをプリンターヘッドから吐出する過程で、細胞が詰まってしまうことや物理的な衝撃により細胞にダメージを与えてしまうことが大きな課題であった。そこで、プリンターヘッドの構造ならびに吐出条件を細胞に適したものに一から見直すことで、細胞へのダメージを与えることなく吐出できる最新型の「細胞吐出ヘッド」を完成させた。その結果、iPS由来細胞をはじめとした様々な細胞をプリントできるようになった。
この最新型ヘッドを支える技術について、リコー未来技術研究所の田野隆徳バイオメディカル研究室長はこう語る。「詳細は企業秘密とさせてください。ただし、特に新しい技術を使ったわけではありません。1年間も試行錯誤を繰り返す中で、ひらめいた一種の『気付き』がブレークスルーとなったのです」―。また、このヘッドの誕生によって、実証実験が出来る細胞の種類が格段に増える見通しだという。
今後の展望について、田野室長は「2020年の東京オリンピックまでに、バイオ3Dプリンターで作った生体組織モデルをサンプル提供できるようにしたい」と話す。世界中のオフィスに不可欠の存在となったプリンターが近い将来、その活躍場所を医療分野にまで広げることは確実だろう。
バイオ3Dプリンターを使って実験中の研究員
リコー川崎ライフイノベーションセンター
〒210-0821 神奈川県川崎市川崎区殿町3-25-22
(写真)筆者 RICOH CX4
平林 佑太