AI面接、学生と企業で異なる評価
~求められる改善策~
社員の新卒採用市場が厳しさを増す中、企業は効率的で公平な採用活動に向けて生成AI(人工知能)の活用を拡大している。その一方で求職者の学生は、普及が進むAI面接について「実力発揮感」や「納得感」「誠実さ」などが感じられないとして、入社意向の低下を招いている面がある。企業側、学生が異なる評価をしている姿が浮かぶ。双方の溝を埋める策が必要な時期に来ている。
過去最低の充足率、採用は正念場
少子高齢化に伴う若年労働力の減少、コロナ禍で低迷した経済の回復もあって、新卒採用は「売り手市場」になっている。マイナビが1616社を対象に行った「2025年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」によると、企業が設定した求人数に対して実際に確保できた人員の割合を示す採用充足率は70.0%。採用スケジュールが変更された2017年以降で最低の水準となった(注1)。
採用充足率の年次推移(出所)株式会社マイナビ「マイナビ2025年卒企業新卒内定状況調査」を基に作成
企業が「採用が厳しかった」と考える理由は、①自社の求人に興味を持ち、応募してくれる可能性のある求職者が多くない②エントリーシート提出や面接などに実際に参加する求職者の確保が難しい③内定辞退者が増加している―ことが上位となった。
効率性、質向上を目指す
企業は課題となっている応募者確保のため、会社説明会を増やしたり、入社見込みのある人に個別にアプローチしたりしている。また、内定辞退を防ぐ目的で、つなぎ止めのための面談や社内イベントを開催。企業は今後、採用の質を上げるため、これまでよりも多くの人手が必要になる。
そこで、企業は採用活動の効率化に向けて生成AIの活用を進めている。人手のかかる事務作業を減らすため、過去の求職者の履歴書や職務経歴書、エントリーシートなどをAIに読み込ませ、その評価基準に基づき自動で書類選考する。
AI性格診断を活用した適性検査の実施もしている。求職者の性格や行動特性を客観的に評価し、コミュニケーションスタイルやリーダーシップスキル、チームワークの適正などを評価し、求めている人材を獲得するのに役立てている。
面接時の音声・表情を分析
面接や評価においても活用が進む。対話型AI面接を導入し、録画された求職者の面接データを用いて音声や表情などを分析し、採用基準に基づく評価を自動で行う。
AI面接の活用で、採用担当者の作業負担を減らすと共に、評価者の好みなどに左右されない客観的な基準に基づいた選考が可能となる。人間では見落としがちなポテンシャルなどを見抜くことも期待できる。その企業にとって成功した採用パターンが蓄積されれば次年度以降、効率的となり採用活動の質向上にも寄与する。
一方、求職者は書類提出が24時間できたり、都合の良い時に面接を受けられたりする。面接官との相性による対話や解答の出来不出来も回避できるだろう。双方にとってメリットはある。
AI面接は受け入れられづらい
ところが、大学生・大学院生797名を対象に行われたリクルートマネジメントソリューションズの「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX調査」によれば、実際のAI面接経験者は、人が評価する個人面接やグループ面接と比較して、AI面接は受け入れにくいと考えている(注2)。
その理由に関しては、対人面接と比較して「妥当性」「実力発揮感」「納得感」「誠実さ」を感じにくくなると指摘された。求職者はAI面接において、自分の資質を見極めてもらう、自分としっかり向き合ってもらう等について、納得していないようだ。企業は面接の参加しやすさ、公平感、合否への納得感を理由にAIを導入しても、実際には入社志望意思を低下させたり、内定を辞退されてしまったりして、採用状況をより厳しいものにする可能性がある。
AI面接に対する感想
(出所)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX調査」を基に作成
公平性が揺らぐリスク
採用選考におけるAI導入について、大学生58人を対象にアンケート調査した宇都宮大学の森田佐知子准教授(学術)によると、約6割の学生が導入に反対していた。また、AIによる評価能力、判断力について森田准教授は、①AIでは人の性質は見抜けない②自分の熱意や考えがAIに伝わるか不安―など、否定的な意見を報告している。一部の学生がAI面接のパターンを見抜き、対策が出回る可能性があるといい、公平な評価が揺らぐリスクについて指摘する声もあったという(注3)。
その上で森田准教授は、①AIに関する基礎的な知識②AIが得意、不得意とする評価・判断③採用活動におけるAIの役割に関する実情―について学生に教育する必要性を訴えた。
今後学生は、AI面接を前提に対策を考えることが重要となろう。学校や企業からAIに関する情報を得たり教育を受けたりするだけでなく、自ら情報収集する姿勢も必要になる。
一方、企業は求職者にAIに関する情報提供や、評価が適切に行われる旨の情報開示などをどう進めるか、改善する必要があるだろう。
<インタビュー>
◎職場での活用、目的の明確化を
~生成AI活用普及協会事務局次長に聞く~
学生の採用活動にとどまらず、多くの業務でAIが使われ始めている。企業は具体的に何に取り組めば良いのか。生成AIの社会実装を通じて産業の再構築を目指す一般社団法人「生成AI活用普及協会(GUGA)」の小村亮事務局次長に企業が取るべき対応について聞いた。
講演をする小村氏(提供)一般社団法人 生成AI活用普及協会(GUGA)
――生成AIの利用を求められる求職者や顧客の懸念、不安を取り除くために企業はどんな準備をすればよいか
多くの企業は社内方針などでツールの導入が先行してしまい、AIを正しく扱える人材の育成が不足していると感じる。採用活動のなかで生成AIを取り入れるにしても、適切な活用なのかを判断・実行するためには、AIを使いこなすスキルとAIリテラシーを兼ね備えた人材の育成が必要だ。
GUGAでは生成AI人材を①育成する人材(開発者・パイオニア)②駆使する人材(AI推進リーダー)③協働する人材(能動的に使いこなす利用者)④無意識に使う人材(受動的な利用者)―の4タイプに分類している。
【図3】生成AI人材の4タイプ(出所)一般社団法人 生成AI活用普及協会(GUGA)
しかし、多くの企業は、パイオニアや推進リーダーにばかり注目してしまい、一般社員が普段からAIを使いこなせるような環境づくり、つまり能動的利用者の育成は後手に回っている。受動的な利用者は生成AIを使っている自覚がないため、リスクマネジメントの観点から仕事でのAI活用は避けたい。こうした層を能動的利用者に引き上げる取り組みをしない限り、正しく活用できる人材は育たないだろう。
――AIリテラシーとは
例えば、車を運転するドライバーに必要とされる「運転免許証」を取得する機会を想像してほしい。車を安全に正確に活用するためには、①運転の際に生じるリスクやルールなどの「知識」②安全第一の意識や、どのような責任が伴うのかという「マインドセット」③発進、停止、方向転換、駐車などの車の操作に必要な「入門的なスキル」―の三つを持ち合わせて始めて運転免許証を手にし、運転ができる。
AIの活用においても同じだ。リスクは何なのか、使用者にどのような責任があるのか、何をして良いのか駄目なのか、許される活用の範囲はどこまでなのか。活用時に必要なスキルや行動が何なのかを把握できていれば、自信をもって安全にAIを活用できる。
AIリテラシーの種類(出所)一般社団法人 生成AI活用普及協会(GUGA)を基に作成
――AIを使いこなすスキルとAIリテラシーを兼ね備えた人材は、DXやITなど特定の部門でのみ育成すれば十分か
AIのポテンシャルはAIリテラシー(使いこなすスキルや知識)に加えて、現場の仕事や課題に精通していることでより発揮される。だから、AIを推進する社員がAIそのものについて詳しいだけではなく、現場で働く全社員がAIを自分の仕事において活用できなければならない。
そのためには、AIを独りで活用したり学習したりするだけでなく、グループ全員で使う、近くに活用する仲間がいる、相談やアドバイスを気軽にできる社員の配置といった仕掛けが必要だ。現場で活用する風土がないと、AI活用の普及は難しい。
人事評価に、AI学習を「進めている」「支援している」などの項目を加えるのもお勧めだ。評価や報酬などのインセンティブで、AI活用のプライオリティの高さを社員に示すことができ、活用の意思も上がるだろう。
――改めて、企業のAI活用において重要なポイントとは
はっきりとAI活用におけるスタンスを示すことが重要だ。企業経営において、AIを「どこまで」「何に」活用するのか、目的や線引きを決めたい。他社の動向は参考程度であり、自社が「ありたい姿」を検討する。
例えば、「AIを全ての部署で来年までに使う」との方向性を持っていれば、AIに関心がなかったり、疑問を感じたりする求職者の採用を見送る選択肢もあるだろう。逆に前向きな姿勢を持つ求職者は、仲間として迎え入れたい。経営方針とAIをどう使うかが結びついていれば、それにひもづく人材の採用方針もおのずと決まる。
生成AIの導入・活用は、企業の「経営の姿勢」を示している。AIという手段の前提として、自社の強み(自社らしさ)や提供価値を明確にできるかが問われている。目的を持って活用できる企業とそうでない企業では、さまざまな点で差が生じるだろう。
〔略歴〕
小村 亮 氏(こむら・ りょう)
生成AI活用普及協会(GUGA) 事務局次長。
2017年、株式会社オプト⼊社。PRを主軸にブランディング領域のプランナーとして従事。株式会社デジタルホールディングス出向を経て独⽴し、複数社の経営に携わる。⽣成AIの台頭を受け、GUGA立ち上げに参画。広報責任者を経て現職。
〔参考文献〕
注1)株式会社マイナビ「2025年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」2024年11月.
https://www.mynavi.jp/news/2024/11/post_45691.html
注2)株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX調査」2024年11月.
https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/0433848699/
注3)森田佐知子「大学のキャリア形成支援における AI 教育の必要性
―採用選考におけるAI導入への学生の意識に着目した探索的研究― 」
大学教育研究ジャーナル、2021年3月、第18号.
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小川 裕幾