2016年10月11日
最先端技術
研究員
平林 佑太
遠隔操作によって、鳥のように空を飛ぶドローン(無人飛行機)。空中撮影のほか、配送などへの応用も期待されるが、われわれの生命の安全を守ってくれる「眼」にもなるという。
2012年12月に発生した、国内史上最悪のトンネル惨事といわれる中央高速・笹子トンネルの崩落事故。それに限らず、高度成長期に建設されたトンネルや橋梁(きょうりょう)などの公共インフラが老朽化し、その対策が喫緊の課題になった。
この事故を契機に、国は2014年2月、トンネル・橋梁などの構造物に関して「5年に1回、近接目視を基本とする定期点検の実施」を義務付けた。だが、その実施はそう簡単ではない。国や自治体に点検コストがのし掛かるほか、検査員が圧倒的に不足しているからだ。しかも、その作業には多くの危険も伴う。
このため、「古くなったトンネル・橋梁の点検を、人間に代わってドローンにやってもらおう」というアイデアが浮上した。例えば、東北大学とリコーなどは内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムの支援を受け、「球殻(きゅうかく)ドローンによる橋梁点検システム」の研究開発を共同で進めている。
このドローンは、サッカーボールに似た幾何学模様の球殻に覆われている。空中飛行だけでなく、地上でもボールのように転がり、自由に移動できる。開発責任者の大野和則・東北大准教授によると、「ドローンが橋梁にぶつかっても、球殻が衝撃を和らげ、機体を守ってくれます。このため、人間の入れない高所で狭い空間にも潜り込み、点検できるのが最大の特徴です」―
東北大学・未来科学技術共同開発センターの大野和則准教授 (写真) 筆者 RICOH CX-4 使用
球殻ドローンは重さ約2.6キロ。球殻を利用して橋梁に接近し、機体に搭載した小型軽量カメラで細かい損傷を撮影する。その画像は、パソコンに取り込まれ、点検報告書を簡単に作成できるシステムに利用される。リコーICT研究所の原島正豪・主幹研究員は「検査員による点検結果のばらつきを減らし、網羅的な点検をすることによって、損傷の経時的な比較が可能になるはずです」という。
狭い空間にも自在に潜り込み、人間の「眼」の代わりに橋梁の点検を行う球殻ドローン。活躍が大いに期待される一方で、操縦者(オペレーター)の育成がハードルになる。点検箇所まで的確に導くには、ある程度のテクニックと経験が必要だからだ。また、製造コストや点検の精度も課題になるが、大野准教授は「人間の検査員に負けない『眼』を持つ球殻ドローンを開発してみせます」と自信を示している。
橋梁の下を飛行中の球殻ドローン (提供) 大野准教授
地上を走行中の球殻ドローン (写真) 筆者 RICOH CX-4 使用
平林 佑太