電池を識別、ごみ処理場の火災防止

 私たちの生活に欠かせないスマートフォンやモバイルバッテリー。その利便性を支え、簡単に充電できるリチウムイオン電池が発煙・発火する事故を耳にする機会が増えている。ぼやで済めばよいが、大規模な火災となれば損害は無視できない。実際に廃棄物処理施設やごみ収集車で、リチウムイオン電池が原因とみられる火災が年間1万件超発生しているとされる。こうした火災の防止に向けて、株式会社リコーの子会社でIT機器・システム関連企業「PFU」(本社・石川県かほく市)は、AI(人工知能)とエックス線技術を使ってごみの山からリチウムイオン電池を検知する装置を開発した。

増加するごみ処理施設での発火

 近年、ごみ処理場で顕在化している大きな問題の一つが、リチウムイオン電池による火災事故だ。スマートフォンやモバイルバッテリー、電子タバコなど、私たちの身の回りにはリチウムイオン電池を搭載した製品があふれている。軽量で大容量という優れた特性を持つ一方、これらが適切に分別されないまま廃棄され、ごみ処理の過程で発火して施設や設備に深刻な被害をもたらすケースが増えている。

 環境省の調査によると、リチウムイオン電池が原因とみられるごみ収集車やごみ処理施設での火災・発火事故は年々増加しており、2024年度に2万3068件、25年度は暫定で3万6760件発生した。もっとも、この件数は火災ではなく、煙や火花などを含む広い定義で集計されている。すべてが火災事故ではないものの、発火の原因である電池の混入が繰り返し起きているのは明らかだ。

リチウムイオン電池等に起因すると疑われる廃棄物処理時の火災事故等の件数推移
(出所)リチウムイオン電池総合対策関係省庁連絡会議(第3回)資料

検知率は94%

 そうした中、PFUはごみ処理施設向けリチウムイオン電池検知装置「Raptor VISION BATTERY」の提供を開始した。

 この装置は、ごみ処理を行う前の廃棄物をエックス線で撮影し、AIが透過画像を解析。ごみの中に混在するリチウムイオン電池を検知する。そして検知したリチウムイオン電池の位置を作業者へ通知して電池除去を支援する。従来の目視確認や簡易センサーでは難しかった電池の検知を可能にした。PFUによると、実証実験で、リチウムイオン電池の検知率は94%を記録したといい、火災リスクの大幅な低減が期待される。

事業者の高い導入意欲

 ごみ処理施設で収集したデータを継続的に学習する再学習機能も備えており、自治体や事業者によって、また、季節によって変化する廃棄物の種類などを学習して検知精度を向上する仕組みを検討しているという。

 PFUのRaptor事業開発部の本江雅信チーフマネジャーによると、ごみ識別装置の開発は2020年に開始した。当初は顧客からの要望で、ビンの色を識別する装置を開発し、24年に「Raptor VISION BOTTLE」という名称で製品化している。並行する形でごみ処理施設におけるモバイルバッテリーの発火事故の相談を受けて今回の装置の開発を23年から進め、提供に至った。

 火災事故の防止という観点から、事業者の導入意欲は高い傾向にある。一部の事業者からは、「検知精度が不完全だとしても再発防止策として早期に導入したい」という相談も来ているという。仮に火災が発生して消防が出動する事態になれば、原因究明や今後の対策などに関する消防署への報告が後日必要になる。

 さらに自治体施設が被害にあった場合には住民への説明責任も生じる。例えば、ごみ処理の機能が火災で著しく低下すれば、処理場のある地域でごみ収集の日程を変更せざるをえない事態になりうる。そうなれば、住民の理解を得るため、説明機会を設けなければならないだろう。その際、形式的な安全対策では理解を得るのが難しく、実効性のある再発防止策が求められる。

検知システムの導入を想定したごみ処理の流れ。TCO=総保有コスト
(出所)PFU資料を一部加工

不可欠なリサイクル拡充

 PFUが開発した検知装置は火災防止に向けて力を発揮する上、従来処分されていた電池を再資源化することにも役立つ技術と言えよう。またPFUは現在手作業で行っている最終的な選別を自動化するシステムの開発を検討している。

 リチウムイオン電池はスマートフォンや電気自動車(EV)のバッテリーとして今後、需要はさらに高まる。多くの資源を輸入に頼る日本においては、ごみの山をいわゆる「都市鉱山」と位置づけ、希少金属などを"採掘"する仕組みの構築を含め、素材を廃棄しない取り組みが求められよう。

《おさらい》 

Q  ごみ処理場でリチウムイオン電池が原因とされる火災が増えているのはなぜか。
A スマートフォンやモバイルバッテリーなどに使われるリチウムイオン電池が、ごみに混入したまま処理されている。このため、ごみ収集車や処理施設において年間数万件の発火事故が報告されており、施設損壊や火災の大きな原因となっている。

Q PFUが開発した新技術・装置はどのようなものか。
A エックス線撮影画像をAIで解析し、ごみの中に埋もれたリチウムイオン電池を検知。その電池の位置を作業者に通知して火災防止を支援する。検知率は実証実験で94%を達成している。

Q 今後の課題は?
A 電池を検知しても多くはリサイクルされず廃棄されている。多くの資源を輸入に依存する日本は、ごみの山を都市鉱山と位置付け、リチウムや希少金属を回収・再利用する仕組みの整備や、リサイクルを後押しする政策支援などが求められている。

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榎 浩規