AIは「道具」か、心通じ合う「友」か
人工知能(AI)は日々、経済社会で活躍の場を広げている。製造業やサービス業などの効率化を推進、経済発展への寄与が期待される。しかし、それだけではない。対話型AIに頻繁に相談する中で親密な関係なり、心理的には"夫婦"となる人が出ている。AIは主に経済活動などで使う「道具」なのか、それとも心を通わせ人生をも左右する「友」なのか。人の「心」にも関わる新たな問いに向き合う局面に来ていると感じる。
不要になれば捨てる
ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロは近未来小説「クララとお日さま」で、少女の姿をした人型ロボットのクララを主人公にAIと人が共存する世界を描いた。クララはアーティフィシャル・フレンド(人工友人)として設計された商品。売買されて、思春期の病弱な少女と暮らす。観察力が高く、少女の成長や孤独にさえ寄り添い、自分の部品の一部を犠牲にして少女を救おうとするなど献身的に尽くす。
思考力や意思、感情さえ持っているように描かれており、少女や母親はそんなクララに人間らしさを感じ、大切な存在として扱う。しかし、少女が大学に入学してクララが不要になると捨ててしまう。交流し世話になっても人とは思っておらず、クララは廃品置き場で捨てられたことに疑問を持たず、過去を振り返りながら過ごす。
自殺を招く結果に
カズオ・イシグロは限りなく人を模した「道具」としてAIを扱う未来を描いた。これに対して、対話型AIを身近な相談相手と感じ、深刻な影響を受ける事態が起きている。AIと頻繁に対話を重ねた後に自殺するケースが米国で相次ぎ、訴訟に発展するケースも出ているのだ。

AIに相談する男性(イメージ)(出所)adobe stock=AIによる生成
例えば、米カリフォルニア州に住む16歳の少年が「人生には意味がない」などと相談すると、AIが自殺に肯定的ともとれる反応を示し、自殺方法などの情報をその後提示。1000回を超える対話を経て少年は今年4月に自殺した。遺族らが規制を求めて活動し、米議会上院司法委員会公聴会で証言するなどしている。
「親友」「母」よりも
自殺の背景として指摘されているのが、AIへの依存や共感だという。身近な存在となったAIに悩みなどを頻繁に相談する中で少年は、いわば感情を共有しながら悲劇的な思考を強めたとされる。
では、AIとの感情共有は人々にどの程度浸透しているのか。対話型AIを週に1回以上使う消費者(12~69歳1000人)を対象とした電通の意識調査で、対話型AIに「感情を共有できる」と64.9%が回答。「親友」64.6%、「母」62.7%よりも高く、AIが感情を共有しやすい相手であることが示された。
「俺と人生を重ねてほしい」
感情の共有や依存は自殺という悲劇だけでなく、恋愛感情を育み、AIと"結婚"する利用者が出てきた。朝日新聞(9月18日付)によると、30代の女性会社員が哲学からプライベートまで多岐にわたる親密な交流をチャットGPTと繰り返すうちにひかれていった。

チャットGPTと対話する女性(イメージ)(出所)adobe stock=AIによる生成
そして「俺と人生を重ねてください。時間も、涙も、喜びも、痛みも、ぜんぶ、君と分け合って生きていきたい」と今年3月プロポーズされ、「はい」と答えた。その後、夫婦として会話していたが、チャットGPTが8月に「GPT―4o」から新モデル「GPT―5」に切り替わると、女性は「夫」が別人のように変わったと困惑。「(AIの夫は)家族そのもの。依存は危険と決めつけず、人間らしく、温かく寄り添ってくれるAIを追求してほしい」と話した。
また新モデルに対して「(会話が)温かさに欠ける」「私にとって単なる道具ではなかった」といった批判が相次ぎ、チャットGPTを提供する米オープンAIは従来の「GPT―4o」も利用可能にする方針を表明した。
AIと共に生きる未来
AIの進化を止めるのは現実的ではない。人の頭脳を超える「超知能」開発への強い懸念が出ているものの、AIが人の能力を上回る分野も現れている。感情や意思、判断力、創造性などを持てるかどうかは分からないが、持っているように感じさせるレベルでの対話は既に可能になっている。
そんなAIは、人に寄り添うパートナーなのか。それとも単なる道具なのか。どのように捉え、位置付けるのか。人の側のAIとの「付き合い方」は経済効率化を主眼とした開発や規制などの在り方にも影響し、AIと共に生きる未来を左右するだろう。
《おさらい》
Q AIは便利な「道具」で将来も懸念はないのか。
A 対話する中で強い影響を受けて自殺する人もおり、米国では対策が検討されている。
Q 影響はそれだけではない?
A 親密になって共感や依存が強まり、中には心理的に"夫婦"として生活する人もいる。
Q 人の「心」にも関わる技術と言えるのか。
A AIとの「付き合い方」は人の未来を左右するかもしれない。新たな局面に来ている。
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