2015年07月01日
最先端技術
研究員
飛田 真一
太陽が燦々(さんさん)と照りつける夏がやってきた。100年前の東京では1年1日程度だった猛暑日(最高気温35℃以上)が、最近は10日を超える年もある。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの増加に伴って地球温暖化が進行し、その影響とみられる異常気象が世界中で深刻化している。今回は、化石燃料を再生可能エネルギーに代替し、温室効果ガスを大幅に削減する太陽電池の最新動向をリポートする。
代表的な再生可能エネルギーの一つに太陽電池がある。化石燃料を使わずに発電が可能であり、その際にはCO2を全く排出しない。直径1kmもある巨大な太陽電池を宇宙空間に浮かべて電気を起こし、それを地球に向けて送電できれば...。こうした壮大なプロジェクトが宇宙航空研究開発機構(JAXA)主導で進められている。これが「宇宙太陽光発電」である。
太陽電池を常に太陽光が当たる軌道に浮かべれば、曇りになる心配はないし、地球が夜間でも電力供給が可能となる。
また、宇宙から無線伝送で運ぶ電気は密度が高いため、それを受ける地球上の施設(受電部)は現行の太陽電池より小さくて済む。宇宙太陽光発電ならば、100万kW(原発1基分相当)の受電部の面積は8㎢程度。これに対し、現行の太陽光発電で同じ発電量を賄うには、山手線の内側面積に匹敵する58㎢の敷地が必要になる(九州電力の試算)。
JAXAは今年3月、太陽光発電の実用化に向け、その第一歩となるエネルギー無線伝送の実証実験に成功した。
しかし、宇宙太陽光発電の前途には高いハードルが待ち受けている。100万kWの送信部は6㎢に及び、7万人が暮らしている埼玉県蕨(わらび)市の面積(5.1㎢)より広くなる。こうした巨大構造物を軽量化し、しかも「折り紙」のように小さく畳んで輸送するため、宇宙空間で広げる技術が不可欠になる。
宇宙太陽光発電は「究極のクリーンエネルギー」とも呼ばれるが、電気料金が高価になってしまえば実用化は難しい。とりわけ「折り紙」にして宇宙に輸送するコストが膨らみ、使い捨てのロケットを利用すると7.5兆円を要するとの試算もある。
このため、JAXAは複数回使用できる宇宙輸送機の活用により、輸送コストを数十分の一レベルに引き下げようとしている。過去の試算によると、100万kWの宇宙太陽光発電で建設コストが1兆2000億円程度という目標値を設定している。
下表は、そのコスト目標の内訳である。この目標を達成できれば、宇宙太陽光発電は既存の主な電源より発電コストが安価になる可能性がある。ただし、その実用化にあたっては宇宙への輸送手段の確保などの課題も多く、現時点では2040年以降を想定している。
研究開発の責任者であるJAXA研究開発部門の宇宙太陽光発電システム(SSPS)研究チーム長・大橋一夫氏は次のように語る。「資源を輸入に頼る日本が、宇宙空間で安定したエネルギー源を獲得すれば、地政学リスクを減らすことができる。
決して容易なプロジェクトではないが、宇宙太陽光発電の開発を通じ、宇宙という未知の世界で人類の活動領域を劇的に拡大したい」―
宇宙太陽光発電は夢が膨らむ壮大なプロジェクトだが、実用化にはまだ長い時間がかかりそうだ。このため、東京大学では現行の太陽電池の発電効率を2倍に向上させる一方で、発電コストは2分の1に抑えるという「超高効率太陽電池」の研究が進められている。
この太陽電池は数千個ものレンズを使って太陽光を集めるため、電池の受光面積を大幅に減らすことができる。受光面積1に対して400倍のレンズを使うと極めて高い発電効率を示すという。
太陽光はプリズムで虹色に分けられるように、様々な波長が含まれている。ところが、太陽電池はその種類にごとに、効率よく変換できる波長が異なる。例えば、赤の吸収が得意な電池があれば、青の吸収が得意な電池もある。だから、種類の異なる複数の電池を積み重ねれば、現行電池の2倍以上の超高効率が実現するという。
この超高効率太陽電池を研究している、東京大学大学院工学系研究科(電気系工学専攻)の中野義昭教授に話を聴いた。
「様々な太陽電池を一枚に積層する技術は極めて高度なものであり、主に日本、米国、ドイツの3カ国で熾烈な競争が繰り広げられている。低コスト化も進んできているが、工事費を含めると現行の太陽電池に比べて約1.5倍のコストがかかる。しかし、将来は現行の半分に引き下げられるよう研究に取り組んでいる。そして、太陽電池生産で再び日本が世界一に返り咲く日がやって来る」―
地球温暖化対策の数値目標として、日本は2050年までに温室効果ガスの80%削減を掲げている。宇宙太陽光発電や超高効率太陽電池が実現すれば、日本だけでなく世界各国の温室効果ガス削減に大きく貢献する。太陽電池分野でも、「メイド・イン・ジャパン」の逆襲に期待したい。
飛田 真一