2017年04月27日
最先端技術
研究員
伊勢 剛
リコーが開発した「レーザープリンター用面発光レーザー」(VCSELヴィクセル:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)」が、このほどレーザー学会第9回産業賞の最高位である優秀賞を受賞した。
と言っても、残念ながら「VCSEL」が何なのか、何の役に立っているのか世の中にはほとんど知られていない。そこで、この機会に分かりやすく紹介してみたい。
印刷物を制作する際に「高画質・高精細ならオフセット印刷」「短納期・小ロットならデジタル印刷」という大まかな棲み分けがあることを聞いたことがある人も多いのではないか。オフセット印刷は最初に印刷原版を作成し、紙に転写する印刷方法。文字や画像の輪郭やエッジがシャープに仕上がるため、商業印刷の分野では長らく圧倒的な主流派だった。ただ、原版の作成に時間とコストがかかるため、小ロット印刷には不向きだ。
一方のデジタル印刷はコンピュータから出力機にデータを送って直接印刷する。原版の作成が不要な分コストが安く、多品種・短納期・小ロット化に適している。ただ、解像度はオフセットにはかなわないと考えられていた。この問題を解決したのがVCSELだ。
従来の半導体レーザーは、半導体基板の端面に反射鏡があり、基板の水平方向に光を発していた。VCSELは基板の表面から垂直方向に発光する仕組みで、端面発光レーザーでは不可能だった発光点の二次元配列が可能になった。つまり、レーザービームの高密度化に対応できるのが特徴。
(図表1)端面発光レーザーと面発光レーザーの違いイメージ図
(出所)リコー未来技術研究所 先端デバイス研究センターより提供
リコーは40本のレーザービームを同時発光できるVCSELを、2011年からプロダクションプリンター(商用印刷機)や高速複合機(MFP)の光書き込み装置の光源として搭載している。1本ごとに異なる光の画像情報を乗せて40本同時に書き込む。これによって、従来比8倍の高解像度と超高速スキャンが実現できるようになり、デジタル印刷の欠点を克服、オフセット並みに文字や細線をより鮮明に、画像をよりリアルに再現できるようになった。
(図表2)40の光源を配置したリコーのVCSEL
(出所)リコーHP 技術紹介より
VCSELは伊賀健一東京工業大学名誉教授が1977年に世界に先駆けて発案(当時は助教授)。1999年頃から高速LANやコンピュータ用のマウスに応用されるようになった。リコーはこの技術に磨きをかけ、40本のビーム化に成功。徐々に搭載機種を増やし、販売実績を重ねていることが評価された。
リコーでは、VCSEL技術を応用したレーザー加工機(薄板ガラスの切断加工など)やレーザーパターニング(スマートフォン用タッチパネル配線パターニングなど)等の表面加工、センシングなどの用途にも応用していく計画だ。
リコーHPのお知らせ:VCSEL技術が第9回レーザー学会産業賞「優秀賞」を受賞
伊勢 剛