2018年03月22日
最先端技術
研究員
加藤 正良
「こっそり農遠」というスマートフォン向けアプリがあるのをご存じだろうか?都市部などに住む消費者が有料会員(月額1980円=税別=から)になれば、アプリを通じて農園のオーナーとして作物の栽培に直接関わることができる。アプリを開発したのは東京・渋谷のベンチャー企業「ファインシード」で、消費者と農家をインターネットでつなぐ新しい形の農業を提供するサービスと言える。
オーナーになるためにはまず、アプリから各地の提携農家と作りたい農作物を選択する。例えば、岡山県のイチゴ農園や宮崎県の完熟マンゴー農園などの農家と作物から好きなものを選べば良い。次に栽培したい区画を指定し、最後に登録するだけである。
登録が済めば、モバイルアプリを通じて、消費者が温度、二酸化炭素、湿度といった農場の状況を監視しながら、農作物の栽培に直接参加できる。指定した区画が自分だけの農園となり、いつでもどこでもスマホで栽培、収穫、出荷指示ができる。規定回数までは無料で自宅への配送が可能で、オプションのギフトBOXサービスを選べば、収穫作物を贈答用として配送することもできる。ICT(情報通信技術)が生産者と消費者との新しい農業コミュニティづくりの場を提供しているのだ。
近年、日本の農業は、基幹的農業従事者(自営農業に従事する者のうち、普段主に農業に従事する者)の減少と高齢化が進み(図表参照)、後継者不足による農地の荒廃など、多くの課題に直面している。さらには、環太平洋連携協定(TPP)に象徴されるように、農業は国際化を問われ、持続可能性を追求しなければならない。
(出所)農林水産省「農業労働力に関する統計」
こうした課題に対応するため、生産者の経験に頼るこれまでの農業から、IoT(Internet of Things)や情報クラウド基盤などを活用する「スマート農業」への変革が求められている。
矢野経済研究所が2017年に公表した予測によれば、スマート農業の国内市場規模は2016年度の約104億円から、2023 年度には3 倍強の約333億円まで拡大するという。
超省力・高品質生産を実現する「スマート農業」を育成するため、農林水産省も、ロボット技術利用で先行する企業やIT企業等の協力を得て2013年11月に「スマート農業の実現に向けた研究会」を立ち上げ、国レベルで取り組みを始めている。
具体的には農業の担い手であれば、だれもがデータを駆使して生産性の向上や経営の改善を図れる環境を整える。同時に、地図情報や市況データ、土壌データなど公的機関等が保有する情報を広く提供する、データのオープン化を進めている。
こうした情報基盤の整備に加え、センシング技術を活かした気象や土壌情報の分析による農作業の最適化、GPSの位置情報と空撮によるドローンを活用した生育状況の分析や農薬散布などの作業の効率化などが進めば、農業も生産性の飛躍的な向上を期待できる。
ICT関連の企業にもビジネスチャンスが広がる。例えば、冒頭の事例のように消費者や農家の間に企業が入ることによって、生産から流通・販売に至るサプライチェーンを革新する事業を創造することができる。また、ICTによって農業の生産性の向上が支援できれば、農業経営を支える新たなソリューションビジネスに参入することも可能になる。「スマート農業」の動きにはこれからも注視していきたい。
加藤 正良