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夜空を懸ける天の川に未来を思う

=7月31日に火星大接近=

2018年07月26日

最先端技術

企画室
小野 愛

 夏の夜空に大きく懸かる天の川。都心では肉眼で姿をとらえることはできないが、人里離れた場所なら、薄くたなびく雲のようにぼんやりと見えることもある。その雲がカメラのレンズを通した瞬間に姿が変わった―

 今月、筆者が訪れた沖縄・石垣島。夜空に浮かび上がったのは、まるでスクリーンが大きく裂けて、別の宇宙が顔をのぞかせているような圧倒的な風景だ。空一面にキラキラとした砂をこぼしたかのように無数の星が広がっていた。

20180730_01.jpg沖縄・石垣島で撮影した夜空に輝く天の川

 天の川は実は、私たちの住む銀河系を内側から見た姿である。このため銀河系は天の川銀河とも呼ばれる。人類によって初めて記述されたのは紀元前5世紀。その正体については神話とともに様々な憶測がなされたが、ついにガリレオ・ガリレイが1610年に星の集まりであることを発見。18世紀には地球が銀河系の中にあることが発表されたなど、科学的な解明が進む。広大な宇宙には銀河系と同じような星の集団がたくさん散らばっていると認識されたのは、1920年になってからのことだ。

 天の川にまつわる物語は国によってそれぞれ語り継がれている。日本では織姫と彦星の七夕の物語が知られている。筆者も小学校の体育館に置かれた笹の葉に短冊をくくりつけ、願い事をした記憶がある。実は、七夕は中国で生まれた物語である。奈良時代に日本に伝わり、宮中での行事となって庶民にも広まった。七夕の読み方は機を織る女性のことを「棚機つ女(たなばたつめ)」と呼んだことに由来するという説が有力だ。

 織姫は琴座の一等星であるベガを指す。天の川を隔てた対岸には、織姫との仲を引き裂かれた彦星、わし座の一等星アルタイルが輝く。人工の明かりがなかった時代には、二人を阻む川はより濃く鮮明に見えただろう。1年に1度、七夕の夜に再開する2人。だが実際には、光の速さで会いに行っても約15年もかかるほど離れている。

20180730_02b.jpg天の川を隔てて光る織姫星(黄矢印)と彦星(青矢印)

 7月7日はたいてい梅雨の雨雲にさえぎられ、織姫と彦星を見つけるのは難しい。今年は筆者の住む東京は梅雨明けしていたが、空は雲に覆われていた。なぜこの時期に七夕を祝うことになったのかというと、もともと七夕は旧暦の7月7日に行われていたからである。旧暦の七夕は「伝統的七夕」と呼ばれ、今の暦では8月に当たる。梅雨が明け切り、天の川も天頂高く上り、観察がしやすい時季だ。

 はるか昔から、人類は星空を見上げながら、天文の知識を暮らしに取り込んでいった。東京大学理学系研究科で新たな星の発見に携わるジェローム・ピトゴ研究員は、人と宇宙の関わりについてこう語る。「まだ方位磁石がなかった頃、人は星をたよりに海を渡った。カレンダーがなかった頃、農業は星の位置で適切なタイミングが計られていた。今では、人工衛星によって人や物の位置がその場で正確に分かるようになった。そう遠くない未来には、火星への移住が現実となるかもしれない」―

 実際、米国の宇宙開発企業スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、2019年前半に火星へ有人ロケットを発射すると言明。最終的には、人類が火星に定住することを目指しているという。また、米航空宇宙局(NASA)はキュリオシティと名付けた火星探査機で、約6年前から火星の環境を調査している。2018年6月7日には、キュリオシティが採取した30億年前の泥岩から、生物の存在の手がかりとなり得る有機物が見つかったと発表した。

20280730_05.jpg火星探査機「キュリオシティ」のレプリカ
(提供)ピトゴ氏・NASAジェット推進研究所にて撮影

20180730_06.jpg宇宙船の製造現場2020年に火星へ打ち上げ予定
(提供)ピトゴ氏・NASAジェット推進研究所にて撮影

 テクノロジーの進化によって私たちと星の距離がどんどん縮まっていく。その一方で、遠く離れた地上からでも天体ショーが楽しめるのが星の魅力だ。

 例えば、今月7月31日の「火星大接近」。公転軌道の関係から約2年ごとに地球と火星は近付いたり遠ざかったりしているが、今回は15年ぶりとされるほど近付く。このため9月上旬頃まで南東の空に「スーパーマーズ(火星)」と呼ばれる赤い大きな姿を眺めることができる。また、2018年の伝統的七夕である8月17日の日没直後は、上弦の月が天の川を渡る「船」のように見る者の目に映るかもしれない。

 宇宙の解明によって人間の生き方はどう変わっていくのだろうか。日々の忙しさからいったん離れ、夜空に輝く星を見上げながら、未来に思いを馳せてみようと思う。

20180730_04b.jpg大接近する火星(赤矢印)と天の川

(写真)提供以外は筆者 RICOH GR


参考文献:

「天の川:銀河系の新事実」ケン・クロズウェル、ナショナル・ジオグラフィック日本版、2010年12月号
「天の川の真実:超巨大ブラックホールの巣窟を暴く」奥田治之ら、誠文堂新光社、2006年
「天文の世界史」廣瀬匠、インターナショナル新書、2017年
「「我が銀河」の真の姿は?:よくわかる天の川銀河系」Newton別冊、2008年
「Elon Musk, speaking at SXSW, projects Mars spaceship will be ready for short trips by first half of 2019」Michelle Castillo, CNBC, March 12, 2018.
「NASA's Curiosity rover finds organic matter on Mars」Ashley Strickland, CNN, June 7, 2018.

小野 愛

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