2018年11月13日
最先端技術
研究員
清水 康隆
最近、わが家ではロボット掃除機が大活躍している。留守中に掃除をしてくれたり、在宅中でもその間に別のことができたりするので自分の時間が増えるに等しく、嬉しいかぎりだ。まだまだ限定的ではあるが、人工知能(AI)やロボティクス、IoT(モノのインターネット)の進化は生活を変えつつある。ところが、その進化がもたらすものは、すべてが良いことばかりではない。
(写真)筆者
英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が2014年に発表した論文「雇用の未来」の中で、10~20年後には米国の今ある仕事の半分近くが自動化されていくと論じた。AIやロボットが人間の代わりを務める時代がすぐそこまで来ているのだ。過去にもそういう節目はあった。蒸気機関や電力・石油による第一次、第二次産業革命では機械化や大量生産が進んだ。第三次産業革命ではコンピューターによってホワイトカラーによる単純作業の自動化・効率化が達成された。今は「第四次産業革命」と言われ、AIやロボットが人間と同様の判断を行える時代が来ている。
AIやロボットなどの技術革新のスピードは速い。その原動力は、可能性を見い出した企業による競争だけではなく、国が積極的に関与・支援していることもあるだろう。この第四次産業革命の流れは2016年の世界経済フォーラム(WEF)でも議論されたことで改めて脚光を浴び、各国も関連する産業政策の方針を掲げて推進している。ドイツは「Industry4.0」、中国は「中国製造2025」を前面に押し出している。すでに米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や中国のアリババ、テンセントといった企業が自国だけでなく、世界中で事業を展開している。日本政府も「Society5.0」を掲げ、あらゆる産業や社会生活にAIやロボット、IoTをとり入れる方針を示している。世界中でこうした変革が進めば、先述のように人間にしかできない仕事が変わっていくのもうなずける。
ところで、AIやロボットなどに人間の仕事が代替されると、従来の職が消えるだけだろうか。歴史をひも解けば、第一次産業革命時では人が動かしていた紡績機が蒸気機関によって自動化され、紡績職人の仕事がなくなった。その時は機械を壊す暴動が起きている(ラッダイト運動)。だが、大量生産されるようになった生地は需要を生み出すとともに、織物製造などの仕事を増やした。馬車が鉄道へと変わった時は、運転手や車掌、列車や線路の製造や整備の仕事が生まれている。AIやロボットなどが発展する際も、同様に新たな職業が生まれるのではないだろうか。
例えば、データサイエンティストやeスポーツプレーヤーといった仕事は、以前はあまり耳にしなかったものだ。データサイエンティストについては既に海外の大学では専攻分野として確立されており、プラットフォームビジネスの企業だけでなく、多くの企業が人材を募集している。eスポーツプレーヤーも、海外では高年収を稼げる憧れの職業となりつつある。このほか、自動運転を統括する道路管制やサイボーグ技術者など名前だけでは想像が難しい職業も続々と生まれている。
とはいってもこれだけ変化が激しい時代、将来を見通すことは容易ではないため、先回りするのは難しい。これは決して他人ごとではなく、今30代の筆者にとっても10年後、20年後はどうなっているのかとつい考えてしまう。部屋の中を忙しげに動き回るロボット掃除機を見るにつけ、「こいつは更にどんな進化をしていくのだろう」と期待を膨らませつつ、「こいつには負けられない」という秘かな闘志をかき立てている。
清水 康隆