2018年12月06日
最先端技術
研究員
新西 誠人
今年もお歳暮の季節を迎える。宅配会社のドライバーが息を弾ませながら、各戸を回っている姿を見ると頭が下がる。そう思いながら帰宅すると、自宅の郵便受けに不在票が入っていた。親戚から贈り物が送られてきたようだ。早速、再配達をお願いしたが...。ご存知の通り、この再配達が社会問題になっている。国土交通省によると、再配達率は15%に達する。また、物流コンサルタントの角井亮一氏によると、再配達は2600億円もの経済的な損失を招いているという。
今では当たり前になった再配達だが、子どもの頃を思い出してみると、不在時にはご近所同士で小包などを預かり合っていた。つまり、自分が留守をしても近所の人が代わりに受け取ってくれるし、近所の人が不在ならば自分が預かっていた。
「遠くの親戚より近くの他人」―。ことわざが示す通り、近所に住む者同士がギブ・アンド・テイク、つまり「お互い様」の精神で支え合っていたように思う。ところが、そのようなお互い様のコミュニティーは崩壊し、いつの間にか不在票による再配達が当たり前になった。
お互い様を復活させる技術はないものかと考えていたら、ブロックチェーンを活用した地域通貨を思いついた。近所付き合いやボランティア活動をする際、その対価をお金ではなく、地域通貨で支払うのである。近所付き合いなどで現金をやり取りすることに、日本人は抵抗感がある。だが地域通貨であれば、抵抗感を薄めてやりとりできるのではないか。
それを宅配便に応用したらどうだろう。留守の届け先の郵便受けに不在票を入れる代わりに、近所の人に荷物を預かってもらうのだ。預かった人には、その対価として地域通貨でお礼をする。
「情けは人の為ならず」―。人に情けをかけるのは他人のためではなく、巡り巡って本人のためになるという意味である。近所付き合いが親密だった昔は、ギブ・アンド・テイクが頻繁且つ自然に行われたため、ギブへの抵抗感が少なかった。しかし近所付き合いが衰えると、ギブしてもテイクがいつ来るか分からないため、助け合いが起こりにくい。だから地域通貨の活用でギブへの抵抗感を薄め、心理的なハードルを乗り越えるのである。
ギブで得た地域通貨は買い物に使うほか、自分がテイクした場合のお礼に回す。もちろん将来のために蓄えてもよい。地域通貨を運営するブロックチェーンには履歴が残るため、改ざんはほぼ不可能。また、地域を越えて複数の地域通貨を流通させる仕組みも用意できる。
それは、日本社会が本来持っていた「強み」の再発見につながるのではないか。米国の政治学者フランシス・フクヤマ氏は、20年以上も前の著作「『信』無くば立たず」の中で、日本は高信頼に支えられた社会システムにより、大きく発展したと主張した。高信頼社会は信用のためのコストを低減できるため、それで節約できたお金を社会発展のために使うことができたというわけだ。
ブロックチェーンを使った地域通貨が普及すると、気軽にお互い様を実行できるコミュニティーが復活する。気軽なギブ・アンド・テイクが広がれば、近所付き合いが再び活発になる。急速に増えている独り暮らしのお年寄りを、地域全体で見守ることもできる。「風が吹けば桶屋が~」ではないが、地域通貨は地方再生の切り札になる可能性を秘めるように思う。
イメージ写真(岡山県高梁市吹屋地区)
(写真)中野哲也
新西 誠人