2019年02月26日
最先端技術
主任研究員
伊勢 剛
世界最大級のナノテクノロジーの展示会「nano tech 2019(会期=1月30日~2月1日)」に出展した約500社の中で、リコーは最高位の栄誉となる「nano tech大賞」を受賞した。インクジェット技術を用いて、電池のデジタル印刷製造に優れた革新性を発揮したことが高く評価された。同社の大賞受賞は2016年以来2回目となる。
nano tech 2019会場(東京ビッグサイト)
(提供)リコー広報室
世界初※となるこの技術の一番の特徴は、電池材料である電極やセパレーターをMFPで培った技術を使いインクジェットで「印刷」することによって、自由な形状の電池を製造できることだ。IoT(モノのインターネット)機器やカード、ウェアラブルデバイスなどの形状に合わせて電池を製造できる。
※正極・負極・セパレーター3層をインクジェット法により形成した二次電池として、2019年1月リコー調べ。
インクジェット技術で印刷した電池(イメージ図)
(提供)リコー未来技術研究所
例えば、電池がインクジェット技術を用いて洋服に印刷できれば、センサーを通じて身体や心の情報が読み取ることが可能になる。そうなれば健康管理や病気の予防に役立つだろう。このように自由な形状の電池ができれば、今まで想像もできなかったような用途が生まれる。
今回の技術は、新しい用途だけでなく、電池製造プロセスの時間短縮や製造設備の簡略化をもたらす。従来は製造ラインの切り替えに時間が掛かっていたり、品種別に異なる製造ラインを用意したりする必要があったが、インクジェットのヘッドとインクを交換するだけでさまざまな品種の電池が製造できるのだ。オーダーメイド型の少量・多品種生産に適している。
もちろん技術開発に至る道のりは平坦ではなかった。担当したリコー未来技術研究所材料システム研究センターの鈴木栄子グループリーダーは「電池材料をインク状の液体にする技術が最も難関でした。中でもインク分散技術がカギで、その開発に一番苦労しました」と語る。インク分散技術は何か。従来の一般的なリチウムイオン電池などは高粘度の材料を塗布する方法で製造する。一方、インクジェットで印刷する場合、インクを低粘度にしなければならない。しかし、粘度を低くすると濃度も薄くなるので、何回も重ねて印刷しなければならなくなり、時間が掛かってしまう。高濃度でも材料がインク溶液の中で均一に広がり、高粘度にならないようなインク分散技術が重要となるのだ。材料粒子の微細化設計など、今までリコーが培ってきた材料技術を活かして開発にこぎ着けた。
次なる挑戦は市場の開拓だ。2019年度から電池メーカーなどに向けて本技術を提案していく。そこでどんな用途があるのか、市場の反応を探る必要がある。この技術は応用範囲が広がりそうなだけに、異業種との連携を含めた可能性に期待したい。
ニュースリリース:世界初、インクジェット技術による二次電池の新たな製造技術を開発
https://jp.ricoh.com/release/2019/0129_1.html
お知らせ:リコー、「nano tech大賞」受賞
https://jp.ricoh.com/info/2019/0204_1.html
伊勢 剛