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新しいサービスは新しいモノづくりから

冬夏青々 第13回

2019年08月29日

最先端技術

常任参与
稲葉 延雄

 日本のサービス事業の生産性は低いといわれる。世界の先進国でも、経済の高度化の下でモノづくりからサービス化が進むと、生産性は低下すると予想する人が多い。サービス事業の生産性を高める方法はないのであろうか。

 確かにサービス事業の生産性向上は難しい。そもそも、モノづくりのように大量生産によるコスト削減が通用しないからだ。実際、理髪やレストランの給仕といったサービスでは、顧客一人ひとりのニーズに合わせたカスタマイズが前提となり、コストが増えるばかりである。

 デジタルサービスも同様である。極端な例はアプリの提供サービスである。電磁的なコピーが容易、かつ限界コストがゼロで再生産できる。このため、提供企業は料金を受け取ることができず、多くの場合ユーザーに無料で提供される。提供企業は広告関連サービスで収入を上げるなどの工夫を凝らすしかない。

 このように、先進的なデジタルサービスでも意外と儲からない。実際、GAFA(=米IT大手4社)のようなデジタル超大企業は儲かっているが、それを含む米国のデジタル企業全体の収益の伸びはほとんどゼロであり、GAFAを除けば多くのデジタル専業企業は赤字であることが知られている。

 とはいえ、多くの企業が努力しているように、自らの事業にデジタル技術を移植して新たな領域で企業価値の拡大を狙う戦略は正しい。これまでアナログ技術ではできなかったモノでも、デジタル技術でそれが可能になれば、全く新しいサービスを提供できるからだ。

 例えば、クルマの自動運転というサービスは、高性能のステレオカメラとAI(人工知能)の組み合わせで初めて実現できる。3Dプリンターが造る人工臓器、あるいは精緻な画像分析が可能な医療機器によって、医療サービスはさらに高度化していく。

 デジタルの世界で目新しいデジタルサービスを生み出していくことは大変難しい。できたとしても、人々には当たり前に思われてしまい、対価を払ってもらえない。人々が願っているのは、企業がデジタル技術で全く新しい財をつくり上げて全く新しいサービスを提供し、それによって困り事を解決してくれることだ。結局、モノづくりの時代は決して終わることはない。裏返すと、「新しいサービスは新しいモノづくりから」を実践できた企業は、生産性を飛躍的に高められるのである。

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稲葉 延雄

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※この記事は、2019年6月28日発行のHeadLineに掲載されました。

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