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経済安全保障で重要性増すデータセンター

=半導体不足の二の舞を避けられるか=

2022年02月01日

最先端技術

研究員
河内 康高

 2022年1月17日、通常国会が召集された。岸田政権は「経済安全保障」を重要政策の1つに掲げ、その柱となる「経済安全保障推進法」の成立を目指す。とりわけ、経済安全保障の観点から重視しているのが、インターネット社会を支えるデジタルインフラである。

 中でも、大量のデータを蓄積・処理する「データセンター」(以下「DC」)の増強を喫緊の課題に位置づける。近年、データは「21世紀の石油」と呼ばれ、デジタル社会の「資源」として重要性が増す。その一方で、データ通信量の急増に伴い、DCの不足が懸念されるからだ。

写真ネット社会を支えるデータセンター(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

コロナ禍で急増中のデータ通信量

 コロナ禍以降、ビデオ会議システムを使うリモートワークの普及や、動画配信サービスに代表される「巣ごもり需要」の拡大を背景に、データ通信量の増加には拍車が掛かる。総務省によると、主に自宅やオフィスで使用される「固定通信」のデータ通信量(2021年5月)は、コロナ禍前(2019年5月)からほぼ倍増している。

 また、スマートフォンなどのモバイル機器で使用される「移動通信」のデータ通信量(2020年9月)は、コロナ禍前(2019年9月)に比べて約1.3倍も増えたという。総務省はこのペースで推移すると、データ通信量は向こう10年間で30倍以上となるとの試算を示す。まさに「情報爆発」というべき事態が起こりかねないのだ。

国内インターネットにおけるデータ通信量
図表(注)各年5月
(出所)総務省

 さらに近い将来、クルマの自動運転の実用化や人工知能(AI)の普及が必至であり、データ通信量の加速度的な増加は不可避だと予測される。例えば自動運転車は、カメラやGPSで収集したデータをDCに送りながら、加減速・ルート変更などを行う。そのデータ量は1台当たり1日1000ギガバイト(=映画1000本分)に上る。

写真クルマの自動運転が実用化すると...(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

首都圏に7割が集中するデータセンター

 こうした中で経済産業、総務両省を中心に、国内でDCの増強を目指す動きが活発化してきた。まず、日本のDC立地状況を見てみよう。関連事業者が参加する日本データセンター協会によれば、2021年11月時点で全国のDC247カ所のうち、関東に126カ所(51%)が立地。うち東京都が76カ所(30%)と断トツだ。

都道府県別データセンター立地(2021年11月)
図表(出所)日本データセンター協会を基にリコー経済社会研究所

 サーバールーム面積ベースで見ると、一極集中の傾向がより顕著に表れる。日本データセンター協会の情報を基に経産省が作成した資料によると、2019年時点でのサーバールーム面積の実に71%が関東に集中、東京都だけで49%を占めるのだ。首都圏にサーバールームの広い大規模DCが集積する一方で、地方では小型のDC が点在するのが実情だ。

サーバールーム面積ベースのデータセンター立地(2019年)
図表(出所)経済産業省を基にリコー経済社会研究所

 その理由として考えられるのが、データのレイテンシー(=通信の遅延時間)の問題。データの最大需要地である東京に近いほど、レイテンシーが短くなり、DC としての魅力が増すのだ。「何かあった時にすぐ駆けつけられる」という運用・保守面からも、交通アクセスが良い場所にあるほうが有利だという側面もある。

各都市から東京都心までのレイテンシー(平均値)
図表(出所)内閣官房を基にリコー経済社会研究所 

地方に拠点整備、データ「地産地消」時代へ

 DC不足が懸念される中、政府も整備に乗り出した。2021年10月、経産省と総務省は共同で「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」を創設。機密情報も保管するDCの国内設置は経済安全保障上不可欠だとの認識を示した上で、日本の国際競争力にも直結すると指摘する。

 また、DCが首都圏に集中する現状に対しても、大規模災害発生時などのレジリエンス(回復力)の観点から、両省は地方分散の必要性を訴える。2022年1月17日、有識者会合は中間とりまとめを発表、東京のバックアップになり得る規模の「拠点データセンター」を地方に整備する方向性を示した。

 さらに、自動運転や遠隔医療など超低遅延が求められる次世代サービスを実現するため、データ発生地で処理も行う「分散型データセンター」の整備も推進する。いわゆるデータの「地産地消」である。

求められる応答速度
図表(出所)経済産業省、日本取引所グループを基にリコー経済社会研究所

 同時に、経産省はDC の拠点設置に前向きな自治体の募集を始めた。手を挙げた自治体と意見交換を行った上で、3月をめどに拠点立地の考え方を取りまとめる。4月以降、実際に立地を希望する事業者を募集(含む補助金の公募)、2026年にDC 建設に取り掛かる見通しだ。

 このように、日本でもようやくDCの国家戦略的な重要性が認識され始めた。とはいえ、立地選定や電力インフラ整備などが必要となるDCは、計画してもすぐに稼働できるわけではない。官民が連携して迅速な整備を進めなければ、現在の半導体不足のように将来、深刻なDC 不足に悩まされるリスクも否定できない。時間との戦いだ。

河内 康高

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