2022年06月23日
最先端技術
常任参与
稲葉 延雄
この6月で取締役会議長を退任し、2008年以来のリコーでの生活に区切りをつけることとなったので、お世話になったリコーグループのみなさんに現在の私の率直な気持ちをお話しして、お別れの言葉としたい。
世界の産業界は大きなうねりの中で翻弄されているように見える。しかし、技術の面で未来の変革をリードしていく主要なエンジンは、プリンター・テクノロジーと光学テクノロジーであることは識者の多くが一致して認めている。これらの未来テクノロジーは、いずれもリコーグループが長年培ってきた分野であり、偶然とはいえ心強い。
一方、これからの企業の強みはアナログ(マシン)とデジタル(サービス)の融合からしか生まれないこともますますはっきりしてきた。というのも、日本の製造業が世界の覇者として活躍していたアナログの時代は30年前に終わったし、代わってGAFAMがリードしてきたデジタルのみの時代は今まさに終わろうとしているからだ。
リコーグループは現在、キラーマシンの開発とそれに随伴する高度なデジタルサービスを融合し、ユーザーの求めるシステムを供給する独自のデジタルサービス・カンパニーを目指している。巧(たく)まずして世界の変化を先取りしているのだ。このため、リコーグループの技術やノウハウが求められている領域もとてつもなく広がっている。事務機器を必要とするオフィスの現場だけでなく、企業活動の中核である開発、生産、物流、販売の各現場や、社会の維持に不可欠な領域である医療や教育などの現場にも及んでいるからである。
別の見方もできる。リコーグループのような事務機を中心とする精密機械の企業は、二次元のコピー機ビジネスから、3Dプリンターや3Dスキャナー、ステレオカメラ、360度カメラなどを通じて、三次元復元や三次元の仮想空間にかかわる各種ビジネス、言い換えればメタバース(三次元仮想空間サービス)ビジネスを展開しようとしている。これはGAFAMがSNSからメタバースビジネスに転身しようとしているのと軌を一にしている。世界の先進企業は高度デジタル技術を活用して、メタバースという共通の頂きを目指しながら、別々の登山口から登ろうとしているといってもよい。
こう考えてくると、新たな一歩を踏み出しているリコーグループや先進企業にとって、未来は明るく輝いて見える。リコーの時代はすぐそこに来ている。
稲葉 延雄