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広がる日祝日休業の動き

 働き方改革を次のステージへ

2024年07月26日

働き方改革

主任研究員
田中 美絵

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに在宅勤務が定着するなど、「働く場所」の改革は進んだ。さらに、働き方改革の次のステージとして「働く日」や「働く時間帯」を見直す動きが広がり始めている。深刻な人手不足に直面した企業が、人材確保を目的に日祝日を休業とするケースが相次いでいるのだ。これは一時的な現象か、それとも時代の大きな流れなのだろうか。

百貨店やスーパーでも

 小売りや飲食などのサービス業は日曜日や祝日に顧客が多いため、日祝日に営業するのが当たり前とされてきた。ところが最近、日祝日をあえて休業する企業が増えている。例えば、レストランチェーンを展開するサガミホールディングスは今年4月、ゴールデンウイークや夏のお盆などの期間中にグループ全店の一斉休業日を設けると発表した。

 このほか、ウエディング事業を中心に手がけるテイクアンドギヴ・ニーズも、週末を含む一斉休館日を設定している。三井不動産レジデンシャルは今年度から首都圏のマンション販売拠点で「日曜日定休」を本格的に導入した。百貨店やスーパーでも、「正月三が日はすべて休業」というところが出てきている。

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背景に人手不足や子育てへの配慮

 各社が日祝日の休みを導入し始めた背景には、人手不足が深刻になり、従業員のワーク・ライフ・バランスに配慮して日祝日に休めるようにしないと十分な人材を維持・確保できなくなった事情がある。

 さらに、子育て中の社員への目配りも理由だ。子供のいる社員には、子供の休みに合わせて日祝日に休みたいという希望が強い。子持ちの社員が日祝の休みで優遇されがちなことに子供のいない社員が反発し、職場内でもめることもある。子育て社員を「子持ち様」などと呼んで批判する声が上がるなど、論議を呼んだのは記憶に新しい。

週末に働く人は4割以上

 日祝日を休業とする動きが出てきたとはいえ、週末に働いている人は依然として多い。労働政策研究・研修機構がまとめた2022年の報告書によると、正規労働者やパートの人は男女とも4割以上が週末に勤務している。中でもパートの男性は、週末に勤務している割合が7割近くと高かった。

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週末勤務者の割合(出所)労働政策研究報告書No.221を基に作成

 週末に働いている人の業種は、男性は製造業や運輸業・郵便業、女性は病院・医療・福祉、小売業の割合が高い。物流や医療関連など、社会活動の維持に欠かせないエッセンシャル・ワーカーの多くが週末勤務を余儀なくされていることがわかる。休日勤務の在り方をどうするかという問題は、該当する業界や従業員だけではなく、社会全体の課題と言える。

男性 女性
製造業 15.1% 病院・医療・福祉 32.8%
運輸業・郵便業 13.1% 小売業 18.3%
建設業 12.1% その他サービス業 10.8%
小売業 9.9% 飲食業 7.8%
病院・医療・福祉 9.9% 製造業 5.5%

週末勤務就労者が所属する主な産業(出所)労働政策研究報告書No.221を基に作成

なぜ広がったのか

 そもそも日祝日に働く人が増えた理由として、産業構造の変化によって第3次産業の比重が高まったことや、サービス業界における利便性競争の激化に加え、高齢化やIT(情報技術)化などさまざまな要因が指摘されている。

 2022年のサービス産業動向調査年報によると、GDP(国内総生産)に占めるサービス業(第3次産業)の割合は1970年は52%だったが、2021年には73%に上昇した。さらにサービス業の従業者数は全産業の78.9%に上っている。

サービス競争や高齢化も一因

 サービス業の比率が高まるにつれて、業界内での競争も激化した。コンビニエンスストアの草分けであるセブン-イレブンは1975年、一部店舗で24時間営業を開始した。90年代半ばにはスーパーマーケットが「正月三が日」に営業するようになった。このころ、ヤマト運輸は年末年始を含む365日営業を開始した(注1)。

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 「欲しいときにすぐに手に入る」という便利さへの需要は、社会のデジタル化で普及した電子商取引(EC)によってさらに加速した。デジタル社会を支えるITシステムのメンテナンス作業は休日や夜間に行われることが多く、これも日祝日の勤務を増やす要因となっている。

 高齢化も休日労働が増える一因となっている。365日24時間体制の長期入居型介護施設は、2000年に約1万施設、従業員数は約40万人だったが、22年には1万3000施設で77万人を超える人が働いている(注2)。

休日や平日夜に働くリスク

 私たちがいつでもサービスを受けられる便利さと安心感のある社会は、休日や夜間に働いている人がいるからこそ成り立っていると言える。サービスを利用する人にとっては便利な社会だが、働く人の視点から見ると看過できない問題が浮かび上がってくる。

 休日や平日夜といった平日昼間以外の「非典型時間帯」に働くことは、労働者の健康やワーク・ライフ・バランスに影響があると指摘されている(注3)。働く時間帯が変わるシフト勤務によってうつ病にかかるリスクが高まるという指摘や、夫婦間でいさかいが起こりやすくなり離婚率が高まるといった研究もある。日本の家庭を対象とした調査によると、非典型時間帯に働く人は日中だけ働く人に比べて、子供といる時間や一緒に夕食をとる日数が少なくなる割合が高いという。

 今のところ、日祝日を休業とする取り組みは主に人手不足対策として行われているが、働き方改革や子育て支援を推進する観点からも、サービス業などで働く人が気兼ねなく休める労働環境を整えることが望ましいだろう。

厳しさ増す労働力減少への対応 

 ただし、労働力人口が急速に減少する中でしっかり休める体制を作るのは容易ではない。2024年度版の高齢社会白書によると、23年は7395万人の日本の生産年齢人口(15~64歳)は、35年に6722万人、50年には5540万人に減少すると推計されている。

 接客などを伴うサービス業は機械化が進んだ製造業などより人手に頼る部分が大きい。人工知能(AI)などの技術革新である程度は代替可能だが、おのずと限界はあるだろう。労働力不足を外国人労働者の受け入れによって補う手法も考えられる。だだし、円安によって日本は海外からみて魅力的な労働市場ではなくなってきた。どこまで期待できるか未知数だ。

難しい経営判断

 労働人口減少への対応はもとより、働き方改革や少子化対策の必要性などを考慮すれば、日祝日を休業とする動きは今後さらに強まっていくと考えられる。

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 サービス系の企業にとって消費需要の多い日祝日の休業拡大は、収益機会の減少につながる頭の痛い問題だ。従業員の働きやすさに配慮して人材の維持・確保を図ると同時に、事業の持続可能性をいかに高めるか。各企業は、難しい経営判断を迫られることになる。

消費者の意識改革を

 「働く日」の改革は企業や労働者の問題であると同時に、消費者の問題でもある。消費者が過剰なサービスを求めたことが、過剰な休日労働を生み出してきた事実を自覚する必要があるだろう。コロナ禍によって図らずも「働く場所」の柔軟性は高まった。これを「働く日」「働く時間帯」の改革につなげて、働き方改革のステージを高められるか。そのカギは、私たち一人ひとりの意識改革にかかっているのかもしれない。

(注1)ヤマト運輸HP https://www.yamato-hd.co.jp/100th-anniversary/column/detail12.html
(注2)介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の施設数と従業員数
(注3)Arlinghaus et al. 2019; Bolono et al. 2018; 大石, 2022

<参考文献>
労働政策研究・研修機構(2022)労働政策研究報告書No.221 変わる雇用社会とその活力 ―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―
Anna Arlinghaus, Philip Bohle, Irena Iskra-Golec, Nicole Jansen, Sarah Jay and Lucia Rothenberg (2019) Working Time Society consensus statements: Evidence-based effects of shift work and non-standard working hours on workers, family and community, Industrial Health, 57, 184-200.
David J. Maune & Rachel A. Sebastian (2012) Gender, Nonstandard Work Schedules, and Marital Quality, Journal of Family and Economic Issues, 33(4), 477-490.
Maureen Perry-Jenkins & Abbie Goldberg (2007) Shift Work, Role Overload, and the Transition to Parenthood, Journal of Marriage and Family, 69(1), 123-138.

田中 美絵

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