人手不足、外国人頼みで大丈夫?
建設や運輸、介護、サービス業など幅広い業種で深刻な人手不足が常態化する中、企業にとって外国人労働者は重要な戦力だ。日本で働く外国人労働者数は2025年まで13年連続で過去最高を更新している。統計を見る限り、日本の労働力不足を外国人労働者でカバーするシステムは安泰なように見える。しかし、近年の円安で国際的な円の価値は大幅に下がり、「出稼ぎ先」としての魅力はダウンしているとされる。外国人頼みの労働力確保は果たして持続可能なのか。多角的に検証する。

増える外国人労働者
厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」によると、日本の外国人労働者数は2025年10末時点で257万人に上る。シェアは国内就業者の4%弱とさほど大きくないが、人数は10年で約3倍に急増している。また、出入国在留管理庁によると、在留外国人全体(25年末)は413万人で、在留資格別では19年に受け入れが始まった「特定技能」が前年比11万人増と大きく増えた。
特定技能の人々は一定の日本語力と専門技能を有しており、「即戦力」として期待が大きい。明確な目的意識を持つモチベーション(意欲)の高い人材が多いとされ、職場全体の活性化に貢献しているようだ。また、特定技能の人に限らず、飲食や観光、小売りなどのサービス業の現場では、増加する訪日外国人客(インバウンド)への対応に外国人労働者の語学力が役立っているとの声がある。

日本の外国人労働者数(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(毎年10月末)
「出稼ぎ先」としての魅力低下
ただ、歴史的な円安が長引き、「日本で働いても稼げない」という声がSNSや一部の報道で目立つようになった。実際に、対ドルや対ユーロの円相場が円安になっただけでなく、数値が大きいほど通貨価値の国際的な「実力」が高いことを示す実質実効為替レートは大きく低下している。ピークの1995年5月は191.58だったのに、2026年5月は65.93とほぼ3分の1にまで通貨価値が下がっている。
外国人労働者が日本で30年前と同じ額面の給料をもらっても、その価値は平均して3分の1に減ったことになる。近年、日本の賃上げ率が5%前後まで回復したが、「失われた30年」はベースアップゼロの時代が長く続き、途上国との賃金格差は縮小した。収入の面で、「外国人が働いて稼ぐ国」としての魅力が乏しくなったのは明らかだ。
見逃せない「シェアの変化」
ではなぜ、日本で働く外国人は増え続けているのだろうか。特定技能制度など、受け入れ態勢の拡充が功を奏した面はあるだろう。ただ、見逃してはならないのは外国人労働者の「出身国」の内訳が変化していることである。
日本を抜いて世界2位の経済大国となった中国のシェア(占有率)が低下したのは当然としても、中国に代わって最大の労働者供給国となったベトナムのシェアが2021年の26.2%をピークに低下傾向になっている。ベトナム、中国、フィリピンの上位3カ国のシェアが低下する一方、インドネシア、ネパール、ミャンマーなどの比率が上昇している。ベトナムなど日本に多くの労働者を供給してきた国々の減少を、インドネシアなどの増加が補って外国人労働者全体の増加が続いているということだろう。

日本の外国人労働者の国別割合
(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(毎年10月末時点)
「日本で働きたくない」ワケ
ベトナムなどがシェアを落としているのはなぜなのか。外国人材の紹介会社マイナビグローバルが2024年4月に公表した調査によると、在日外国人が「日本で働きたくない理由」は「円安」がトップだった。「長時間労働など労働環境」がこれに続き、「経済発展しない」「給与が安い」など、日本経済の停滞に関連する理由も2割前後を占めた。

日本で働きたくない理由(出所)マイナビグローバル
なぜ円安が日本で働きたくない理由のトップなのか。ベトナム出身の労働者の立場から考えてみよう。対ベトナムドンの円相場は、2021年から25年末までに約26%も円安が進行した。このため円建ての給与が同じなら、ドン建ての給与は3割近く目減りする。多少の賃上げがあったとしても、円安による減価をカバーするのは難しい。日本に出稼ぎする一番の動機は、本国に仕送りして家族の生活水準を向上させることだ。円安で十分な仕送りができなくなれば、日本で働くメリットは大きく低下する。
本国経済の成長も要因
近年、ベトナムなどのアジア諸国では国内賃金が上昇を続けていることも大きい。本国で十分な収入が得られるのなら、わざわざ日本で働くことはない。ベトナム労働省(MOLISA)のデータによると、ハノイやホーチミン市など主要都市の最低賃金は2021年の442万ドンから25年の496万ドンへと約12%上昇した。日本とベトナムの賃金格差は縮小しているのだ。
気になるのは、ベトナムの海外労働管理局(DOLAB)のデータだ。ベトナムから日本への出稼ぎが減少傾向にある一方で、台湾、韓国向けはほぼ横ばいで推移している。ベトナム人が好む出稼ぎ先で、日本が劣勢に立たされている可能性がうかがえる。
ライバル国の動静
韓国と台湾はベトナムと地理的に近く、以前からベトナム人労働者の主要な受け入れ先となっている。両国は日本と同様に深刻な少子高齢化による労働力不足に直面しており、ベトナム人労働者の確保を巡るライバル国と言えるだろう。
韓国はE-9ビザ(非専門就業ビザ・雇用許可制)の受け入れ上限を2023年の12万人から24年に過去最大の16.5万人に拡大した。E-9ビザとは、国内で労働力を確保できない企業が外国人を合法的に雇用するための制度で、製造業、建設業、農業、漁業、サービス業など幅広い業種が対象となっている。
また台湾はベトナムに近く、受け入れのハードルも低い。日本では技能実習、特定技能、育成就労など複数の在留資格があり、技能試験と日本語試験にパスしなければならない。これに対し台湾は原則として、年齢と業種の要件を満たせば就労許可が下りる。台湾の半導体産業の成長に伴う労働需要の拡大も労働市場の魅力を高めている。
こうしたライバル国の動静を見ると、日本が今後も外国人労働者に「選んでもらえる国」であり続けるのか不安を覚える。
拡大する外国人不足
日本政策投資銀行系の総合シンクタンク価値総合研究所の需給予測(2024年)によると、2040年代にかけて日本では外国人労働者が最大97万人不足する見込みという。21年の予測では、不足は42万人と見込まれていた。わずか3年で外国人労働者の不足人数の予想が2倍以上に拡大したことになる。
仮に円安という逆風が一服したとしても、アジア諸国の賃金上昇や、韓国、台湾などのライバル国の台頭が続けば、日本の労働者不足を外国人労働者で穴埋めしようというもくろみ通りにならない恐れがある。


外国人労働者の需給ギャップ
(出所)DBJ価値総合研究所「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究-外国人労働者需給予測更新版-」
受け入れ拡大策
深刻化する人手不足への対応策として、日本政府は2027年4月にこれまでの技能実習制度を発展的に解消し、「育成就労制度」を導入する。技能実習は終了後の帰国を前提とした「技術移転と国際貢献」を目的としてきたが、育成就労は「人材育成と人手不足の解消」を掲げる。原則3年間の育成就労で技能を習得し、その後、期間5年の特定技能1号に移行できるようにする。受け入れ上限は特定技能と合わせて約123万人(育成就労42.6万人+特定技能1号80.6万人)とする。転職が原則禁止だった技能実習と異なり、希望すれば1〜2年経過後に同一業種内での転籍を認める。
外国人労働者の受け入れ枠拡大を図る一方で、日本は外国人の長期定住を抑制する傾向が依然として根強い。2025年12月に高市政権は、永住許可・在留資格審査を厳格化する方針を打ち出した。移民をどこまで受け入れるのかという問題は、欧州などの移民先進国で国論を二分する社会課題となっている。外国人の受け入れを巡っては、国内にさまざまな意見がある。引き続き慎重な検討が求められる。
「外国人に選ばれる国」に
円安によって外国人労働者の確保が実際に難しくなっているわけではないが、ベトナムなどより経済・所得水準の低い諸国へ労働者の送り出し国がシフトしつつあるのが実情だ。将来的に、韓国や台湾との間で外国人労働者の「囲い込み競争」が激化する可能性も否定できない。
日本経済の安定成長には、十分な労働力確保が欠かせない。女性や高齢者の就労支援など国内対策を充実させつつ、日本の労働市場が外国人労働者に選ばれ、貴重な労働力として意欲をもって活躍してもらえる環境を整備することが重要だ。円安を一つのきっかけに、官民を挙げて日本を魅力的な労働市場とするための取り組みを強化する時期にきているのではないか。

《おさらい》
Q 日本の外国人労働者数は増えているのか。
A 2025年まで13年連続で過去最高を更新し、2025年10月末時点で257万人に上る。10年で約3倍と急増し、幅広い業種で重要な戦力となっている。
Q 円安で日本離れが進んでいるのか。
A 外国人労働者全体では増加しているが、トップのベトナムのシェアが低下する一方、ネパール、ミャンマーなどは上昇している。所得水準の低い国にシフトしているようだ。
Q 将来的に外国人労働者の不足はどの程度深刻になる?
A 2040年代に最大97万人の不足が見込まれる。21年時点の予測(42万人)からわずか3年で2倍以上に拡大している。この先、深刻な不足が生じる恐れは否定できない。
Q 今後、日本は外国人労働者に「選ばれる国」であり続けられるか。
A 円安が終わっても、アジア諸国の賃金上昇や韓国・台湾との競合という構造的課題は残る。外国人が意欲をもって活躍できる環境整備を官民挙げて進めることが求められる。
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芳賀 裕理