AIに電力の壁、打破に向け官民対応
人工知能(AI)の普及拡大に「電力の壁」があるのでは―。そんな懸念が広まっている。AIの普及に伴うデータセンター(DC)増設により消費電力が増加。これに伴い電力供給が追いつかない可能性があるためだ。電力の壁の打破に向け、電力会社は通信会社等とともに、電力と通信を一体的に捉えることで社会インフラの最適化を図る「ワット(電力)・ビット(情報通信)連携」に取り組んでいる。政府はワット・ビット連携を今後のICT・エネルギー政策の柱の一つに据える。さらに、地方にDCを分散設置し、再生可能エネルギー(再エネ)の活用を促している。持続可能なデジタルインフラの構築が狙いだ。短期的にはDC自体も省エネに取り組む動きが活発になっている。
DCへの電力供給の懸念払拭(ふっしょく)に向けた官民の取り組みをリポートする。(共著 主席研究員 小林 辰男)
消費電力増の可能性
人口減少の進行や省エネルギー機器の普及により、日本の消費電力は減少傾向にあった。しかし新たな電力需要の増加要因として注目されているのが、AIをはじめとするデジタル技術の進展に伴うDCの新設・増設である。高度な計算処理を担うDCは膨大な電力を消費する。その増加は電力需給のバランスに新たな影響を与えつつある。
2026年1月に電力広域的運営推進機関(OCCTO)が発表した消費電力量の見通しによると、DC新設の遅れを背景に足元の電力需要の予測を下方修正した。しかし、長期的には需要が増加に転じるとの見方に変わりはない。
今後10年間の日本の消費電力量の見通し
(出所)OCCTOの公表資料を基に作成
生成AIの普及により、データ処理に必要な計算量は急速に増加している。総務省の鎌田俊介データ通信課長は「AI開発に必要な計算量は加速度的に増加しており、DCの整備は急務だ」と危機感を示す。こうした状況を受け、DCの新設・増設計画が相次いでおり、消費電力量は大きく増加することが見込まれる。
DCを地域産業の柱に
電力を大量消費するDCは関東・関西などの都市圏に集中している。AIの進展による都市部の電力需要増に対して、総務省はどのように対応しようとしているのか。ワット・ビット連携の第1弾は、電力系統(発電・送電の設備ネットワーク)に余力のある地域へのDC建設や、系統状況等に連動させて計算需要を制御する「ワークロードシフト」だ。
DCの立地地域は都市部に偏り
(出所)総務省「ワット・ビット連携官民懇談会(第1回、2025年3月)」配布資料
まずは、ワット・ビット連携について確認しておきたい。現状では、DCを立地しようとしても、DCに必要な電力系統や通信インフラの整備に長い時間を要してしまう。特に、電力系統の整備は、通信インフラに比べ、コストと時間を要する傾向にある。そこで、発電所近くにDCを立地し、長距離の送電の代わりに、DCとその利用者の間を通信網で結ぶことが重要となる。
将来的には、各地に設置するDCの繁閑を把握しながら、AIがDCに要求する計算処理のタイミングや使用するDCの選択最適化を図り、電力の供給余力が大きい夜間にAIのデータ学習を実施したり、余力のある地域のDCで計算させたりすることが期待される。この実現のためには、電力と通信の連携を一層図っていくことが鍵となる。
例えば、北海道~東北地方の風力発電や九州地方の太陽光・原子力発電の活用を念頭に、これらの地域へのDC立地促進が考えられる。こうした地域にはスマート農業や遠隔医療、自動運転のデータ処理拠点としてDCの需要が見込まれる。電力の供給地と需要地を近づけて、都市部にあるDCでの計算処理を地方へ分散させて電力需要の都市部集中の緩和につなげるとともに、DC立地地域におけるDCを活用した新たな産業や雇用の創出を通じて、地方経済の活性化を図る狙いもある。

地域におけるDC立地を核とした地方創成への貢献(例)
(出所)総務省「ワット・ビット連携官民懇談会(第1回、2025年3月)」配布資料を基に作成
計算負荷を分散、効率化
ワット・ビット連携に関する長期的な取り組みの第1弾がワークロードシフトだ。電力需給状況、電力系統内の混雑状況(地域の送電網や変電所の負荷状況)、GPU(画像処理用半導体)の空き状況等を踏まえ、DCの計算需要を空間的・時間的にシフトする技術であり、電力会社をはじめとする民間事業者で実証が進められている。例えば晴天などで再エネ発電量が多い地域は余剰電力が発生する場合がある。こうした地域に設置したDCに、降雨や曇天の地域にあるDCが担っている計算需要をシフトすれば、再エネ余剰電力を有効活用し、電力利用の効率化につながる。
ワークロードシフトの概要(出所)各種資料を基に作成
DC事業者も消費電力の抑制に取り組んでいる。鍵となるのは、DCの空調にかかるエネルギー消費を可能な限り小さくすることだ。DC空調システムの省エネ化により、「空気調和・衛生工学会」から技術賞を受賞したインターネットイニシアティブ(IIJ)の白井データセンターキャンパス(DCC)=千葉県白井市=を訪問し、その先進的な取り組みについて聞いた。
冷却で省エネ
白井DCCはDCが集中する千葉県印西市に隣接している。いわばDC銀座の一角を占め、最大5万キロワット(kW)の電力を消費する。IIJのDC事業の中核であり2026年度内の増設に向けたDC建屋の建設も進んでいる。
実はDC全体で消費する電力は、AIのデータ学習や推論などに活用するGPUを搭載したものを含む多数のICT機器自体の消費に加え、発熱した機器を冷やす空調に使う電力が無視できない。経済産業省によると、2014年度以降に新設されたDC全体の消費電力は平均でICT機器が消費する電力の約1.5倍になるという。これは電力使用効率(PUE=DCの消費電力÷ICT機器の消費電力)と言われ、DC全体の消費電力を150とすると、そのうち50が空調に使われる計算になる。経産省はPUEを30年度までに1.4以下にすることを省エネ法に基づいて求めている。
白井DCCでは外気を冷却のために直接利用する構造を採用し、空調に必要な電力を大幅に削減、PUEを設計値で1.2台(2025年度実績は1.31)に抑えている。加藤佳則センター長はさらに「PUEを1.0(空調電力ゼロ)にできるだけ近づけるべく、空調電力やその他の電力削減に取り組んでいる」と話す。また、過去にはDCに煙突をつけ、排気に伴う自然な空気の流れによって吸気も行う仕組みの実証実験も行ったことがある。空調電力やその他の電力削減に取り組んでいるICT機器に送風する電力も不要にする野心的な試みだ。
白井データセンターの空冷システムの概略(出所)IIJの公表資料などを基に作成
蓄電池でピークカットも
電力供給への懸念は消費電力量(kWh)だけでなく、ピーク時の消費電力と発電能力(kW) の関係も挙げられる。瞬時でも消費電力が電力系統の発電能力を超えると停電につながるためだ。白井DCCはリチウムイオン蓄電池を導入し、夜間の割安な電気を蓄電している。蓄電した電気を昼間の電力需要の多い時間帯に放出することで、ピーク時の消費電力の引き下げを図っている。「空調電力換算で年間平均15%のピークカット(引き下げ)を目標としており、最大約27%のピークカットを実現したこともある」と加藤センター長は話す。こうした電力使用の平準化は、発電・送電の設備ネットワークである電力系統の安定性を意識した対応と言える。
DC需要の拡大による消費電力増への対応は、費用を度外視した安定供給を念頭においた従来型の発送電設備の増強で図ることは難しく、政府と電力会社、DC事業者は新たな対応を模索している。
ただ、対話型AIのチャットGPTを使った1回の検索に使う消費電力量はグーグルの一般的な検索の約10倍という試算もある。日本では人口減少や、製造業からサービス業への産業シフト、省エネ機器の普及によって使用する総電力量は減少傾向にあるが、AIの進展によって増加に転じる可能性もある。一方で地球温暖化防止に向けて脱炭素社会実現という旗も降ろせない。
新時代は誰が担う?
今、AI普及が加速するとともに、再エネの比率が高まる時代に向かいつつある。需要に合わせて火力発電の出力を調整する従来の手法から、需要側の電力使用を最適化する仕組みへ変わっていくだろう。そのためには、ユーザーごとの電力利用データの取得と分析が不可欠になる。それを担うのは、電力会社なのか、AI・DC事業者なのか。どのプレーヤーがその役割を担うのか注目される。
AIブームの前に立ちふさがる「電力の壁」打破に向け、電力と情報通信を統合的に把握・調整して新時代を切り開くプラットフォーム企業になるのは、どちらだろうか。
最新データセンターで稼働するサーバーとスーパーコンピューター(イメージ)
《おさらい》
・AI向けデータセンター(DC)の新設・増設により、今後日本の消費電力量は増加する可能性が高まっている。
・政府や電力会社は、電力と通信を一体的に管理する仕組みを進め、電力供給に余裕のある地方へのDC分散配置を促している。
・計算処理を電力に余裕のある地域や時間帯へ移し、再生可能エネルギーの有効活用や電力需給の最適化を図る。
・DCでは、外気冷却システムや蓄電池の活用により、空調電力の削減などピーク電力の抑制を実現し、AI時代の持続可能なインフラ構築を目指している。
タグから似た記事を探す
記事タイトルとURLをコピーしました!
榎 浩規