「GCP1.0」いち早い対応が勝者への道
資源をできるだけ循環、長く利用しながら素材や製品の価値を最大化する経済活動「サーキュラーエコノミー」は、欧州連合(EU)を中心に制度化が進んでいる。一方で、「個別企業がどれだけ資源を循環させているのか」を世界共通の基準で測る仕組みは十分に整っていない。こうした中、日本が主導して開発したのが「グローバル循環プロトコル1.0(GCP1.0=Global Circularity Protocol)」という新しい枠組みである。GCP1.0は、再生材の利用割合、製品の長寿命化、回収率などを基に企業の「循環性」を評価する。
本稿では、その背景にある国際的なルールづくりの動きと、日本企業にとっての意味について考察する。
先行するEU
これまでの経済活動は大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としていた。これは、リニア(一直線)エコノミーと呼ばれる。それに対しサーキュラーエコノミーは「シェアリング」「再利用」「再生産」「リサイクル・再生」を前提に資源を循環させつつ、新規資源や廃棄物の最小化をさせる経済活動の構築を目指している。単なる環境対策ではなく、社会や産業の仕組みそのものを変えるという考え方である。
例えば、①製品を長く使えるように設計②壊れたら修理しやすく設計③使い終わった製品を回収して再利用―などが求められる。新しいビジネスや雇用の創出にもつながるとして、世界的に注目が高まっている。
特にEUは2024年、サーキュラーエコノミーを念頭に置いた「エコデザイン規則(ESPR)」を発効させた。これは、EUで販売されるほぼ全ての製品について、「長く使えるか」「修理しやすいか」「再生材をどれだけ使っているか」などの情報を製品に付加させる制度である。さらに、「デジタル製品パスポート」という仕組みを通じて、製品ごとの環境情報をデジタルで管理・共有する動きも進んでおり、こうした分野で世界をリードしている。
サーキュラーエコノミーの概念図(出所)NTT Data
共通ルールが未整備
そのサーキュラーエコノミーには大きな課題がある。「循環性」を世界共通の基準で測る方法が整っていないのだ。ただ、企業の循環性を測る取り組みはいくつか存在する。例えば、①資源循環性を客観的・定量的に評価し、改善目標の設定やモニタリングに活用する「循環移行指標(CTI)」②EUの情報開示制度「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」―などである。
ただし、いずれも循環性の一部分を測る仕組みにとどまり、企業活動全体を総合的に評価する国際基準にはなっていない。その結果、循環型経済活動の取り組みを進めている企業であっても、市場や投資家から十分に評価されにくいという問題が起きている。だからこそ、「共通のモノサシ」を作ろうという動きが世界で加速している。
日本が「主導する側」に
こうした国際ルールづくりの中で日本は、これまでに見られなかった「主導する側」に立っている。日本が議長国を務め、2023年に広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、サーキュラーエコノミーが「環境政策」だけでなく、「経済安全保障」や「成長戦略」としても重要だという議論が行われた。
その成果として合意されたのが、「循環経済及び資源効率性原則(CEREP)」である。CEREPは、企業の経営戦略から事業活動、情報開示までを含めて循環経済へ移行するための原則を示している。特に、モニタリングとレポーティングの強化、つまり「企業の循環性をきちんと測り、『見える化』する共通指標が必要だ」という認識がG7各国で共有されたのである。
「測るだけ」で終わらない
こうした中で国際的な循環プロトコル(共通ルール・手順)として日本の環境省が開発を主導しているのがGCPだ。国際経済団体である「持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)や国連における環境分野の最高機関である国連環境計画(UNEP)と連携。150名以上の専門家、サーキュラーエコノミーをけん引するトヨタや花王、パナソニックなどの日本企業を含む80以上の組織がGCPの議論に参画し、国際的な枠組みを検討している。その中で日本は当初段階からルール作りを推進している。
これを具体化したものの一つである「GCP1.0」は「測るだけ」で終わらない点に特徴がある。具体的には、①目的や対象範囲を決める②必要なデータや評価方法を設計する③実際に測定して改善策につなげる④社外へ情報開示する―という流れを仕組みとして設計。循環性の評価・開示を枠組みの設定から評価準備・測定、管理・改善、情報開示まで一気通貫で検証できる。
循環性を経営に組み込むツール
また、評価項目も「再生材比率」だけではない。製品寿命、回収率、修理しやすさ、リサイクル性など、さまざまな視点から総合的に評価する。つまり、「一部分だけ優れている企業」よりも、「全体として循環型の仕組みを作れている企業」が高く評価される設計となっている。さらに、この仕組みは国際財務報告基準(IFRS)など、企業の財務情報との連携も意識している。そのためGCP1.0は、単なる「情報開示ツール」ではなく、「循環性を経営そのものに組み込むための経営ツール」と言えるだろう。
GCP1.0は企業の循環性を共通指標で可視化する枠組みであり、ブラジル・ベレンで昨年開かれた第30回気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)で日本の環境省などが発表した。
GCP活用プロセスの全体像(出所)WBCSDを基にリコー経済社会研究所
ルール作り参加の重要性
今回、GCP1.0の開発に関わった環境省環境再生・資源循環局の吉田諭史氏は、「EUが先行して作るルールは当然ながらEU企業に有利になりやすい」と指摘する。例えば、現在のEU規制では、「再生材をどれだけ使っているか」が重視される傾向が強い。EU企業は以前からそうした方向で製品設計を進めてきたため、「日本企業が同じ土俵で戦うと不利になる可能性がある」という。
一方、日本企業の強みは、「長寿命性」「品質」「修理しやすさ」「総合的な資源効率」などにあるケースが多い。そのためGCP1.0では「再生材比率だけを見るのではなく、製品全体の循環性を総合評価できる仕組みを目指した」という。
つまり日本は、単に海外ルールに従うのではなく、「自国企業の強みが正しく評価される国際ルールづくり」に参加することで、今後の経済活動で不利にならない態勢を目指している。
先に新ルール活用、優位に
吉田氏によると、GCPは現在も開発途上であり、今後2年ほどは試行と改善を続ける段階にある。そして2030年頃にはで国際ルールとして固まっていく可能性がある。その上で吉田氏は、「ルールが固まった後に対応するより、形成段階から参加した方がコストは圧倒的に小さい」と強調する。また、「例えば、情報開示に関しても、今は任意でも、将来的には気候変動のように義務化に向かう可能性が高い。先に新たなルール活用し、企業価値向上につなげた企業が優位になる」とも指摘する。
サーキュラーエコノミーは、製造業だけの話ではない。デジタル技術を使った資源管理、新しい回収サービス、再利用プラットフォームなど、多くの企業に関わるテーマである。世界のルールづくりが進む中、日本企業にも「様子見」ではなく、「どう関わるか」を考える攻めの姿勢が求められているのではないだろうか。
◆携帯電話の轍(てつ)
経済活動に影響するルールや規制に加え、通信技術の国際標準は最も重要な世界ルールの一つだ。今回の循環性をめぐるルール作りを日本が主導する意義に関して、移動体通信技術などをめぐる歴史と現状から読み解いてみたい。
携帯電話の黎明(れいめい)期、NTTが高性能な独自通信技術を開発、国内で一世を風靡(ふうび)した。世界的に普及する可能性もあり得たが、国際標準化の努力を怠った。これに対して別技術を開発したノキアなど欧州企業は世界標準の確立を優先し、途上国を含めて一気に普及させた。
その後の高度な通信技術の標準化は欧州企業に加えて中国ファーウエイなどが主導し、スマートフォンや基地局市場で日系企業の多くは部品供給にとどまっている。国際標準の重要性が明らかな中、インターネット、デジタル放送などでも日本が標準を取れたケースは少ないが、デンソーが生み出したQRコードは国際標準として世界に貢献している。
世界的に使われる標準技術、そしてルールは一国経済の浮沈を左右する。
資源や製品を循環させながら長く活用するサーキュラーエコノミーの実現は、地球環境の将来を見据えて避けて通れない。その国際的な仕組みやルールの細部を「日本仕様」にすれば、ほとんどの国や企業が使う新たな枠組みとなり、将来の大きなビジネスチャンスになり得よう。今後のGCPの議論に注目したい。

〈おさらい〉
Q 「GCP1.0」とは何か。
A 企業がどれだけ資源を循環的に利用しているかを共通の基準で評価するための国際的な枠組み。再生材比率だけでなく、製品寿命や回収率、修理しやすさなども含めて総合的に「循環性」を測る点が特徴となっている。
Q なぜ今、「循環性」を測る必要があるのか。
A 欧州を中心に製品の環境性能を求めるルール整備が進んでいる。今後、「どれだけ環境に配慮しているか」を説明できない企業は、市場や投資家から評価されにくくなる可能性がある。
Q 日本企業にどんなメリットがあるか。
A 日本は高品質・長寿命・修理しやすさといった強みを持つ企業が多い。GCP1.0のような総合評価型のルールが普及すれば、そうした強みが国際的に適切に評価されやすくなる可能性がある。
Q なぜ「ルール作りへの参加」が重要なのか。
A 国際ルールは主導した国や企業に有利になりやすい。過去には携帯電話通信規格などで、日本企業が技術力を持ちながら国際標準化で後れを取り、市場競争で苦戦した例もある。議論段階から関わることは、自社や自国の強みを反映したルール作りにつながる。

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斎藤 俊