2018年02月14日
地球環境
研究員
間藤 直哉
高知県東部に位置する香美(かみ)市。急峻な四国山地に囲まれ、一級河川の物部川が流れる緑豊かな街だ。子供に大人気のアニメ「アンパンマン」の生みの親、やなせたかしさんの出身地としても知られる。
市内には「アンパンマンミュージアム」「やなせたかし記念公園」など関連施設が多数あり、至る所でアニメに登場するキャラクターを目にする。みんなの夢を「守る」ために戦うというアニメのテーマさながらに、香美市役所香北支所でもアンパンマンとその仲間たちが、駐車場を守っていた。
香美森林組合はこの駐車場の近くにある。「森を守る」森林整備の活動で、全国から注目を集める森林組合の一つである。具体的には間伐材の利用を進めることで、持続可能な林業を目指して取り組んでいる。
森林整備を図るためには適切な間伐によって残った木を育てる必要がある。木材としての価値が上がるだけでなく、二酸化炭素の吸収源としての機能も強化できるからだ。2008年には「間伐等特措法」が施行され、国も「市町村への交付金の直接交付」や「森林整備事業の地方負担を地方債起債対象とする特例」などの優遇措置によって間伐を促そうとしている。だが、多くの森林組合でうまく運営が進んでいないのが実情だ。なぜなら、この法律は間伐材そのものの利用についてうたっていないため、搬出コストがかさみ、木材需要が低迷している現状では、業者が二の足を踏んでしまうからだ。間伐されても、山に放置されたままのケースも少なくないという。
ではなぜ、香美森林組合が全国のお手本となったのか。お話しをうかがった、組合長の野島常稔さんと専務理事の三谷幸寛さんは、「搬出コストを下げるには、徹底した効率化が必要でした。そのために次の三つの施策を実施したのです」と説明する。
第一に、所有者の異なる民有林の団地化(集約化)だ。そのためには山の所有者を把握し、「どこまでが自分の山なのか」を分かるよう境界を明確にした上で安心してもらうことが必須だったという。第二に、大型トラックが通れる作業道の整備だ。毎年15~40キロメートルの作業道を設けることで搬出コストが劇的に下がっている。団地化したことで、多数の山所有者の同意が容易なったことも見逃せない。第三が、間伐材を切り出す高性能機械の導入だ。欧州製の機械などによって、用途ごとのサイズに2~3分で切り分けることができるようになったという。
搬出コストの低下によって、新たな需要が生まれるなど好循環も起こっている。木質バイオマス発電用として、これまで使途がなかった枝葉や切り株も運び出されるようになったのだ。増産が可能なため、実績を積み上げながら、新たな需要先の開拓を図りたい考えだ。
こうした一連の取り組みによって、香美森林組合では若者の林業への定着が着実に改善しているとみられる。高知県の林業就業者の平均年齢が52歳なのに対し、香美森林組合の平均年齢は46歳であり、若者の定着が平均年齢を押し下げている。筆者が見学した現場でも10年以上経験がある30代の3人が作業をしていた。うまく運営されていることで、仕事の魅力を感じているのだろう。
それでも課題はある。大前提である団地化については、所有者や境界の調査に膨大な時間を要するため、香美森林組合の管轄する森林面積の三分の一にとどまっている。所有者の合意を得るのも簡単ではないのだ。
森林の持つ機能は、前述の二酸化炭素吸収による「地球環境保全」や木材などの「物質生産」が代表的だが、それだけではない。宮城県気仙沼市で、カキの成育には湾に流れ込む川の水質が大切であることに気づいた養殖者が、河口から20キロメートルも離れた山で植林活動を行った話は有名だ。これは森林の持つ「水源涵養(かんよう)」の機能に当たる。
また、適切に管理された森林は山の土壌を保持する機能があり、豪雨による土砂の流出を防ぐ。これは「土砂災害防止・土壌保全」という機能だ。ほかに生物多様性に関する機能も有しており、われわれの生活に密接にからんでいる。
森林浴、防風林、防砂林など人間にとって温かく優しく守ってくれるイメージのある森林。それも適切な整備がされてこそである。そのためには、香美森林組合のような事例を参考にしていただき、森林整備と森林資源の有効活用が広がることを期待したい。
間藤 直哉