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企業はもっと消費者の悩みや期待に向き合おう

冬夏青々 第2回

2016年10月01日

内外政治経済

常任参与
稲葉 延雄

 盛夏に中国を訪問するチャンスがあった。そこでの強い印象は、新興のネット企業が中国の家計や消費者の悩みや期待をうまく吸い上げ、自らも拡大している姿であった。

 日本でも良く知られているように、中国の消費者はもともと既存の流通・販売・輸送業者の不誠実さに強い不満を持っていた。そこに着目したアリババやJDドットコムのようなネット企業が、代替サービスを効率的に供給すること(eコマース)で人々から信頼を勝ち取ることに成功し、巨大企業に発展している。

 日本における中国人の爆買いも、優良な日本製品を欲しいがゆえに、わざわざ自ら日本に来て買い付けて持って帰るのだから、地元の業者に対する著しい不信の表れでもある。もっとも、海外製品を直接ネットで購入する「越境eコマース」も盛んになっており、日本の爆買いもいずれは取って替わられそうな勢いである。

 翻って日本の家計の悩みや期待に、日本のビジネスはうまく応えようとしているのであろうか。

 もちろん成熟社会の日本の家計の悩みや期待は、中国のそれらとは様相を異にしており、いずれも難度が高く、解決は決して容易ではない。本当に切実で、現在の生活がもたらす豊かさを減殺しかねない諸問題は、①健康寿命の延伸を含む長生きリスクへの備え②育児や高齢者介護にかかる過度な負担の軽減③地震や津波に強い住宅への住み替えを含む災害からの安全の確保―などであろう。

 これらについて、日本の企業が高度なデジタル技術を活用しながら、①新しいビジネスを展開する形で消費者に解決策を提示していく、あるいは②企業の雇用・労務政策や賃金政策の弾力化を通じて、会社での新しい働き方を提案することで問題解決を側面から応援する―といった工夫を凝らすべきである。そうすれば、社会問題の解決への貢献と企業価値の向上(経済成長の加速)の同時実現が可能になる。

稲葉 延雄

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※この記事は、2016年10月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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