Main content

非製造業の低い労働生産性、その理由は...

 適切投資、設備活用、付加価値の創出を

2023年08月24日

内外政治経済

研究員
山本 晃嗣

 日本の非製造業の労働生産性は、ほとんどの業種・産業において水準、伸び率とも低い状況が続いている。その要因は、①投資が不足してきた②設備が活用出来ていない③新たな付加価値を創造出来ていない―ことにある。また、人手不足を背景に非製造業もデジタル化が加速しているが、必ずしも労働生産性の向上にはつながっていない。この問題を解消するには、経営者が「このままではまずい」という危機感を抱き、自ら行動することが極めて重要だ。

G7で最下位

 日本生産性本部が昨年12月に公表した労働生産性の「国際比較2022」によると、日本の労働生産性水準は15年以上にわたって先進7カ国(G7)の中で最下位が続いており、近年その差が広がっている。また、伸び率を2005年を基準に比較すると、日本は16年から最下位。この年以降、日本の伸び率は横ばい状態で他の先進国との差が広がっている。

 しかし、世界銀行が公開している労働者1人当たりの生産性に基づいて業種別にみると、日本の製造業の労働生産性水準は米国に次いで2位。また、2000年を基準とした伸び率に至っては米国を上回り、トップのドイツとほぼ同じだ。

 これに対して、非製造業の労働生産性水準はどうか。同じく世界銀行によると、カナダと最下位と争った時期もあったが、2006年以降は主要国で最も低く、低下する時期さえあった。2000年を100とした時の変化は、コロナ禍前の18年までを均すとマイナス。マイナス幅はイタリアに次ぐ大きさだ。

三つの要因

 また、厚生労働省の労働経済白書(2022年9月)に基づき、主な産業の就業者数と労働⽣産性を⽇⽶で比較すると、米国はすべての産業で就業者数と労働生産性がバランスよく伸びている。労働生産性の向上が人の削減でもたらされているわけではなく、就業者数が増えてもそれ以上に付加価値が高まっている。これに対して、日本は就業者数が増えておらず、労働生産性もそれほど上昇していない産業が目立つ。 

図表図表主な産業の就業者数と労働⽣産性の⽇⽶⽐較(出所)「令和4年版労働経済の分析―労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進に向けた課題―」(労働経済白書)

 労働生産性は、①資本装備率②有形固定資産回転率③付加価値率―の三つの要素で決まる。この3点について、経済産業省が昨年3月発表した「サービス生産性レポート」(「サービス産業×生産性研究会」報告書)に基づき、業種別の労働生産性に対する3要素の寄与度を比較すると、宿泊業、飲食サービス業、医療・福祉業などは資本装備率が低下しており、投資を怠っていた実態が分かる。その結果、設備が陳腐化して労働生産性が下がった面が強いだろう。

 また、教育学習支援業、卸・小売業は有形固定資産回転率が下がっており、導入した設備が有効に活用されていない。加えて、生活関連サービス業以外は付加価値率がマイナスとなっており、新しい付加価値を生み出せてない。

図表業種別の労働⽣産性への寄与度(出所)経済産業省「サービス⽣産性レポート」(2022 年3 ⽉)

経営者の危機感

 ハードウエアだけでなく、ソフトウエアへの投資が必要だという指摘は多く、非製造業においてもソフトウエアへの投資は急速に伸びている。特に伸びが目立つのは人手不足業種の宿泊・飲食サービス業だ。しかし、これらの業種は過去10年にわたってソフトウエア投資が拡大しているにもかかわらず、既に示した通り、労働生産性が十分に向上していないという現実がある。

 労働生産性を高めるために企業は、ハードとソフトでバランスの取れた投資が不可欠だ。また導入した設備の有効活用を図る必要がある。さらに人工知能(AI)やデータ分析の活用などにより、新たな付加価値の創造を目指すべきだ。そのために経営者自身が危機感を持って、積極的に行動することが求められている。

山本 晃嗣

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

戻る