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マイナス金利政策に求められる「心構え」

直言 第11回

2016年03月25日

内外政治経済

所長
稲葉 延雄

 今回の日銀のマイナス金利政策は、諸金利をマイナスの領域まで引き下げる中で、住宅ローンや企業向け貸出金利をさらに引き下げ、家計や企業の支出行動を活発化させることに狙いがある。

 一般に経済政策を実行する際には、家計や企業に前もって了解してもらいたい要件がある。ちょうど病気の治療において、患者が薬の副作用について理解すべきことがあるのと同じだ。今回のマイナス金利政策が家計や企業に了解してほしいと期待する要件は、次の三つであるように思われる。

 第一は銀行券の扱い方である。銀行券は無利息なので、他の運用資産の金利がマイナス金利になると、金融資産を銀行券に換えて退蔵するという意欲がどうしても高まってしまう。これが行き過ぎると、銀行券の発行ばかり増えることになる。このため政策運営上は、あまり行き過ぎないことを前提としている。

 第二はマイナス金利に関する金融機関の付利姿勢である。これは取りも直さず、人々が自らの問題としてマイナス金利をどの程度容認するかにかかっている。自らの預金やその他運用資産へマイナス金利が付与されることを、家計や企業がある程度容認しなければ、金融機関は家計や企業が必要な資金を調達する際の金利を下げることができない。そうなれば、政策効果は限定されてしまう。

 第三は技術的になるが、国債金利の働きである。国債金利はリスクフリー金利として、土地や株式などの価格算出の基礎となっている。これがマイナス金利に陥ると、資産価格の形成がかえって不安定化してしまう恐れがある。現に、最近の株式相場やその他の資産価格の変動が大きくなっていることを指摘する向きも少なくない。マイナス金利政策を継続する中で、資産価格の変動はどの程度容認できるのか、今後検証していかねばならない。

 マイナス金利は当局にとって未知の政策領域であるとともに、一般の人々にとってもなじみが薄い。今回の貴重な実験によってさらに多くの知見を集め、人々の十分な理解を促す努力を是非求めたい。

稲葉 延雄

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※この記事は、2016年3月25日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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