2017年03月15日
地域再生
主席研究員
中野 哲也
地方取材の際、確実に貴重なヒントをくれるのが、タクシーの運転手とローカル線の車内である。前者の場合、「どちらから?」→「東京からです」→「出張なの?」→「街づくりを取材しています」→「あの山から街全体の写真が撮れるんだ、行ってみっか?」といった具合である。また、運転手は総じて地元政界に詳しく、国会議員や首長の縁戚関係や後援会有力者を丁寧に教えてくれるケースもある。インターネットで検索すれば、欲しい情報が何でも出てくるわけではない。
ローカル線に乗れば、その街の人の温もりと触れ合うことができる。初めて聞く方言は意味不明でも、そのハリやツヤでお年寄りが元気な街かどうか分かる気がする。突然、「ちょっと食べない?」とお弁当の貴重なおかずをくれたり、都会で活躍する息子自慢を始めたり...。筋書きのないドラマが展開されることもある。
中でも、路面電車には独特の味がある。車内が狭い分、地元の人との距離がぐっと縮まるからだ。試験勉強中の女子高校生が友人に漏らす悩みや、持病を自慢しあうお年寄り同士など...。聞くつもりはなくても、いつの間にか両耳の指向性が強力になっている。
列車が1時間に1本しか走らなくても、鉄路には道路にない安定感がある。駅にはバス停にない生命感がある。しかし、東日本大震災の巨大津波は、一瞬のうちに沿岸部の街からそれらを奪い去った。懸命の復興作業が続くが、6年経っても今なお3万5000人超がプレハブの仮設住宅生活を強いられている。寸断されたレールが一日も早くつながり、列車が被災地に希望を運んできてほしいと祈るばかりだ。
左/JR飫肥駅(おび=宮崎県日南市)
右/JR釜石駅(岩手県釜石市)
左/函館市電(北海道函館市
右/土佐電とはりまや橋(高知市)
巨大津波にのみ込まれた左/JR山田線(岩手県釜石市)と、
右/JR常盤線(宮城県山元町)
(写真)筆者
中野 哲也