2017年08月07日
地域再生
研究員
可児 竜太
工場と住宅地が入り組んで所在する「住工混在」は、日本の工業都市における共通課題である。工場から発生する騒音や振動、臭気が近隣住民との軋轢を引き起こすからだ。
こうした中、日本を代表する産業集積地の東大阪市は「住工共生」のまちづくりを目指し、住工混在から生じる課題の緩和へ向けた取り組みを強化しているという。東大阪市役所を訪ね、経済部モノづくり支援室の巽佳之室次長と間所信行氏を取材した。
東大阪市の住工混在は、日本の他の工業都市と比較しても特に深刻である。都市計画における「用途地域」をみると、工業・準工業地域などの「工業系」地域と第1種・第2種住居地域といった「住居系」地域がパッチワークのように入り組む。このため、工業系と住居系の両地域が接する範囲も広くなる。
(出所)東大阪市
そこで東大阪市は、モノづくり企業の操業環境の保全と市民の快適な住環境を両立するために、「住工共生のまちづくり条例」を2013年4月1日に施行した。この条例では、モノづくり企業の集積を維持するために市内準工業地域の91%を「モノづくり推進地域」に指定し、地域内で住宅建築等を行う際に一定の手続きを必要としている。
例えば、住宅の建築主に対しては、「市へ事前の書類提出と協議」や「近隣モノづくり企業への説明」などの実施を義務付ける。また、住宅仲介業者に対しては、宅地や住宅の取得者や賃借人へ「工業地域や準工業地域の趣旨」や「近隣モノづくり企業の立地状況」などの説明を課す、といったものだ。
一方で工場に対しても、市民の住環境の向上のために施策を講じる。「工業専用地域やモノづくり推進地域への地域外からの移転」や「住宅側から騒音や振動に対する苦情を申し立てられた際の設備等の改善対策」などに対する支援である。市がこの対象経費の一部を補助する。
こうした取り組みが奏功し、東大阪市へは大阪府内の他地域から工場の流入も起こっているという。また、市内には近畿自動車道と阪神高速道路といった大動脈が走り、物流業からの需要も高い。工業・準工業地域に物流施設に適した広さの土地があれば、即座に買い手が付いてしまうほどだという。
「モノづくりのまち」を標榜する東大阪市だから、このように住工混在の問題には特に気を遣い、工場と市民の双方に働きかけ、一定の成果を出している。
さらに同市は、モノづくりに加え「ラグビーのまち」でもある。市内には高校ラグビーの聖地「東大阪市花園ラグビー場」があり、2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップの会場の一つにも指定され、盛り上がりが期待される。
また、市内には完全養殖の「近大マグロ」などの水産研究で知名度が高い近畿大学があり、近年急速に人気を伸ばしている。志願者数は2014年から4年連続で全国一位となった。東大阪市は、このような勢いづく「大学の発信力」も借りながら、産業とスポーツの両面で東大阪のブランド力を高めていきたいという。
(写真)筆者
可児 竜太