Main content

飾り作りに復興の願いを込めて

=仙台七夕まつりを支える「紙問屋」=

2019年07月26日

地域再生

HeadLine副編集長
竹内 典子

 宮城県仙台市の七夕まつりは、青森のねぶた祭、秋田の竿燈まつりと並ぶ東北三大祭りの一つ。伊達政宗の時代から続く伝統行事で、毎年8月6日~8日の3日間に200万人を超える観光客が訪れる。見どころは大通りや商店街に並ぶ豪華絢爛な七夕飾り。その製作現場を取材した。

 直径60センチほどのくす玉と、約3メートルの色鮮やかな吹き流し。観光案内のポスターでよく見る、代表的な七夕飾りだ。7種類で1セットの「七つ飾り」には、それぞれに意味や祈りが込められている。例えば、「吹き流し」=機織りや技芸の上達、「短冊」=学問や書道の上達、「折鶴」=健康長寿・家内安全といったものだ(【七夕と飾りの由来】参照)。祭りに入ると、仙台市の中心部にはこうした飾りを付けた笹竹が約3000本も並び、訪れた人の目を楽しませる。

 飾りは地元の商店街や企業、個人などが用意する。こうした関係者向けに材料の和紙を販売してきた紙問屋の一つが、「鳴海屋紙商事」(仙台市若林区、数井道憲社長)だ。飾りの製作も請け負い、2019年5月に訪ねるとその作業が最盛期を迎えていた。「全体の半数に当たる約1500本の吹き流しを手掛けています。おかげさまで『七夕さんといえば鳴海屋さん』と言われるようになりました」―。丁寧に説明してくれた七夕企画室の山村蘭子さんは、七夕飾りを作って40年のベテランだ。

20190729_01b.jpg鳴海屋紙商事の山村蘭子さん

 作業場の棚には、色とりどりの和紙が並ぶ。ひときわ鮮やかなのが京都の友禅和紙で、花や扇など優美な柄が目を惹く。「友禅和紙は吹き流しによく使います。日本が誇る和紙の良さと華やかな絵柄は七夕飾りに欠かせません」と山村さん。

 実は、七夕飾りに使う和紙にはシルクが混ざっているという。夏は雨が多いので、濡れても破れないようにするためだ。一見、普通の和紙と変わりないが、丸洗いできるほど耐久性は高いという。

 山村さんは話しながらも、その手は和紙を折り重ねていく。「何十年も同じように作っているので手が覚えているんです。花は和紙を折って針金で止めたら、一枚ずつ広げます。それを球体に編んだ竹籠に一つずつ飾っていくんです」 ―

 今では紙製品も機械生産が主流だが、七夕飾りのほとんどは国内で「手作り」されている。機械化しない理由の一つは、デザインが多様な上に毎年テーマが変わるから。祭りが終わると、休む間もなく翌年の検討に入る。年が明けると花などの小さなパーツから製作がスタートし、祭りの前日まで作業が続く。

20190729_02.jpg20190729_03.jpg20190729_04.jpg七夕飾りの製作現場

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、七夕飾り作りも試練に見舞われた。作業場も含め本社建屋が全壊し、市内では祭り自体の中止もささやかれた。最終的には、復興を後押ししようと開催が決まり、鳴海屋も作業を再開した。だが今度は時間との闘い。例年の半分の期間で完成を迫られた。

 「休日返上で働き、間に合わせました」と、山村さんは振り返る。「それ以前は自分の願いを書いた短冊が多かったけれど、犠牲者や復興に向けたメッセージがたくさん届きました」 ― 。この年は鎮魂や復興への願いを込めた白や淡い緑色の飾りが多かったという。仙台市内の小学生が折り上げた8万羽の鶴に加え、国内外から集まった折鶴も杜の都を飾った。観光客も例年並みに訪れ、復興の足掛かりになった。

 あれから8年。今年は「令和」が幕を開けたお祝いがテーマ。飾りは赤や黄など明るい色が目立ち、吹き流しも花をたくさん付けた豪華なものが多いという。「きっと街中がにぎやかになると思いますよ」と、山村さんも楽しみにしている。

 取材中、地元の女性会社員が山村さんを訪ねてきた。勤め先が短冊で通りを飾る「短冊ロード」を初めて計画したそうだ。短冊に穴を開けたものの、笹に結ぶ紐(ひも)の長さで迷っているという相談。「笹の近くで結ぶほうが見栄えがいい。笹からあまり長く垂らさないでね」 ― 。山村さんは見本を見せながら丁寧に助言し、「何千枚もの短冊が風になびく姿はきれいだろうね」 ―

 時間と手間を掛けて作る七夕飾りだが、3日間の祭りが終わるとすぐに片づけられてしまう。他の祭りで使うところがあれば贈るが、毎年デザインが変わるので翌年に使い回すことはないそうだ。

 「もったいない」という心のつぶやきを察したのか、山村さんは「最近は折鶴を再生紙に活用しています」と教えてくれた。市内の全小中学生が、復興プロジェクトとして七夕飾りの鶴を一人一羽折る。これをリサイクルしているのだ。クリーム色を基調とした温かみのある再生紙は、市内の中学生の卒業証書に使われるという。この再生紙は2018年4月、フィギュアスケートの羽生結弦選手に贈られた仙台市の特別表彰状にも使われた。

 山村さんの作業を見ているうちに、飾りを作ってみたくなった。打ち明けると、家庭向けの組立セットを紹介してくれた。実際の七夕飾りと同じ和紙を使用しているため、小さいけれど本物の七つ飾りが手に入るという。

 早速、自宅に戻って作ってみた。くす玉は花紙を蛇腹に折り、中央が針金で結んである状態。だから花紙を一枚ずつ広げて丸くするだけでよい。子供のころに運動会や文化祭で作った花飾りを思い出した。久しぶりに鶴を折り、心静かな時を過ごす。笹の葉に七つの飾りを順に吊るせば出来上がり。分かりやすい説明書のおかげで、不器用な筆者も迷わず作ることができた。多少いびつなくす玉や口ばしが少し曲がった折鶴も、自分らしくていいなと思う。今年の七夕は、オリジナルの飾りで杜の都の熱気を味わいたい。

(写真)筆者 RICOH GR


【七夕と飾りの由来】

 七夕は天の川に隔てられた彦星と織姫が年に1度、7月7日の夜に限って逢瀬を許される星祭り伝説と、女性が裁縫や機織りの腕前の上達を祈る中国の「乞巧奠(きこうでん)」が結び付いたといわれる。日本では古来、織物をする女性のことを棚機女(たなばたつめ)と呼んでいたため「七夕」を「たなばた」と読むようになったとの説がある。七夕の風習は奈良時代に宮中の行事として始まり、後に武家に伝わった。庶民の間では江戸時代に広まり、笹竹に短冊などの飾りを吊るす現在の方式になったと考えられている。

 仙台の七夕飾りには「七つ飾り」といわれる7種類があり、それぞれに意味や祈りが込められている。①吹き流し=機織りや技芸の上達②巾着=節約・貯蓄③投網=豊漁・豊作④屑籠=清潔・倹約⑤折鶴=健康長寿・家内安全⑥紙衣(かみごろも)=裁縫・手芸の上達・厄除け⑦短冊=学問や書道の上達―をそれぞれ表す。

(提供)鳴海屋紙商事

(参考)鳴海屋紙商事ホームページ、「日本大百科全書」(小学館)、「仙台七夕まつり 七夕七彩」 (近江 惠美子、風の時編集部)


竹内 典子

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

※この記事は、2019年6月28日発行のHeadLineに掲載されました。

戻る