2022年01月25日
社会・生活
研究員
山本 晃嗣
2021年12月25日昼、筆者は東北新幹線に乗り、会場へ向かった。日環アリーナ栃木(宇都宮市)のメインアリーナで、国内プロバスケットボールBリーグ1部(B1)の宇都宮ブレックスが本拠地で島根スサノオマジックと対戦。どうしても1人の選手の雄姿を現役のうちに、この目に焼きつけたかったのだ。
日環アリーナ栃木のメインアリーナ
(写真)筆者
その選手はベンチスタート。「いつ出るのか」とドキドキしていると、第2クオーターの残り8分1秒、背番号「0」がコートに飛び出してきた。観衆3057人が詰めかけたアリーナから、一斉に「おー」というどよめきが起こり、万雷の拍手が鳴り響いた。
彼とは田臥勇太(たぶせ・ゆうた、41)。米プロバスケットボール協会(NBA)で日本人初のプレーヤーとして知られる。18年前、筆者が高校の部活動でバスケットボールに夢中だった当時、このニュースに接した時の衝撃を今も忘れられない。身長が高いほど有利といわれる競技で、この身長173センチの「小さな巨人」は大男たちに伍して渡り合った。彼より1センチ低い筆者はこれ以上ない勇気を与えられ、練習に一層熱が入った。
大学時代、バスケに明け暮れた筆者(右)
(写真)筆者
筆者はいわゆる「スラムダンク世代」に属する。スラムダンクはバスケを題材にした人気漫画であり、それを読んで全国の子どもたちがドリブルを始めた時代だ。体育館に限らず、ストリートでバスケを楽しめることをこの漫画で知り、ボールさえあれば仲間と興じていた。もちろん、田臥になったつもりでドリブルやシュートを繰り返した。
社会人となった今もバスケを続けている。コートを走り回りながら、筆者は田臥を真似てシュートやアシストを狙う。新型コロナウイルスの影響に伴い、体育館を借りられず試合や練習ができない期間でも、自宅で筋トレやランニングに励んだ。
田臥が現在所属するBリーグは2016年に開幕した。当時、筆者はバスケ人気が急上昇し、競技人口も拡大すると期待した。ところが...。予想に反して競技人口は伸び悩んでいる。少子化を背景に、野球やサッカーも同様の状況だが。
高校部活の部員数
(出所)全国高等学校体育連盟、日本高等学校野球連盟を基に筆者
理由はさまざまだろうが、バスケを気軽に楽しめる場所が減っていることが一因だと思う。筆者の所属する社会人サークルは、市や区、学校の体育館を借りてバスケをプレーしているが、抽選倍率が高くてなかなか当たらない。
だが、それ以上に気懸かりなのは、公園などでバスケットゴールを見かける機会がめっきり少なくなったことだ。われわれスラムダンク世代に比べると、今の若者は気軽にバスケを楽しめないのでは...。それが競技人口の伸び悩みを招いている気がする。
近年、公園などでは「球技禁止」のケースが多い。子どもたちの安全を考慮すれば致し方ないかもしれない。その一方で、子どもが外で遊ぶ機会を奪い、スポーツを始める機会を減らしてしまう。何事にもリスクは付き物であり、関係者はバランスを是非考えてほしいと願う。
もし、子どもがバスケットボールに全く触れることなく、大人になったら不幸なことだと思う。内径45センチのリング目掛けてボールをシュート。それが決まった時に得られる達成感は、何物にも代え難いからだ。
2021年夏の東京五輪で女子日本代表が銀メダルを獲得したこともあり、バスケ人気に火が付く環境は整いつつある。気軽に楽しめる場所が少しでも増えれば、「未来の田臥」が出現するのではないか...。と夢見ながら、きょうも在宅勤務を終えて筋トレに汗を流す。
45センチのリングが演出するドラマ(イメージ)
(出所)stock.adobe.com
山本 晃嗣