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難問、奇問、珍問...あなたは解けますか? - イマドキの中学入試問題 -

2014年01月01日

社会・生活

研究員 
加藤 正良

(問)
 図は、建設が予定されているリニア中央新幹線のルート図です。直線的なルートになっていて、東京-大阪間を東海道新幹線より1時間半程度短縮することを目指しています。
 電車の窓から景色を見るのが大好きな旅好きの愛さんが念願かない、このリニアに乗車できたとします。
 あなたは、愛さんがどのような感想をもったと予想しますか?(カリタス女子中学 社会)

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(日能研の提供問題を修正)

 いきなりですが、2013年度の中学入試問題から一つ。「南アルプス」という地形のほか、「直線的なルート」がヒントになり、リニア中央新幹線は「ほとんどがトンネル」になると気づく。それに気がつけば、愛さんの感想を「楽しかった」としても、「つまらなかった」でもよい。例えば、「窓の外の景色を見て楽しむことはできず、つまらなかった」などと答えられれば正解になる。

 しかし、受験生の正解率は低く、「満点に届いた受験生はわずか」と出題者がインタビュー(日能研ホームページ記事)で答えている。どうやら、多くの受験生が「リニア新幹線が南アルプスを越える」と想像してしまったようだ。実際、「山の高いところから素晴らしい景色、眺めを楽しめました」といった解答が多かったという。「リニア新幹線」という名前を覚える知識だけではなく、その特徴を理解していないと解けない。

(問)
 99年後に誕生する予定のネコ型ロボット『ドラえもん』がある。この『ドラえもん』がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい。(都内の有名中学 理科)

「ドラえもん」で有名中学は何を問う

 ある有名中学の2013年度入試では、人気アニメ「ドラえもん」が出題され、奇抜な問いかけが注目を集めた。「ドラえもん」が非生物の理由として、成長したり子孫を残したりできないことが答えられれば、点数をもらえたようだ。
 
 大手進学塾、日能研の原和彦・情報企画ディレクターは次のように解説してくれた。「ドラえもんの設問だけに目をとらわれていては、出題の本質は見えてこない」―。この学校は同年の理科の全体を通じて、「生きるとは何か」を受験生に考えさせているのだという。
 
 実は、この問題の別の箇所に、問題を解く上でヒントとなる文章が用意されていた。そこでは、生物であると判断するための特徴として、「自分と外界を区別する境目を有する」「自身が成長したり、子孫を作ったりする」「エネルギーをたくわえたり、つかったりする仕組みを持っている」―の3つが説明されている。問題の隅々まで目を配れないと、得点を稼ぐことは難しいようだ。
 
 最近の中学入試では、正解が必ずしも一つではない、受験生の「考える力」を試す問題が増えている。このため、日能研は2009年にグループ討議による授業を始めた。各グループごとにディスカッションし、一つの成果を発表する。他のグループの結論と比較しながら、自分たちの討議を振り返る。自分の考えを示した上で、他人の考えと比較し、さらに自分の考えを見直すわけだ。このプログラムを通じて、考える力や共感する力を育てているという。

(問)
 現在、原子力発電をなくそう、という意見がある。また、限りある化石燃料に頼るのにも、限りがある。今の私たちの生活をできる限り変えることなく、原子力や火力に頼らない社会作りが議論されている。
 どのような取り組みや工夫、技術があるのか。 いくつか考えられる中で、あなたが特によいと思うものをあげ、その理由を述べなさい。
(清泉女学院中学 社会)                             (日能研の提供問題を修正)

 この問題では、「生活をできる限り変えない」という点がポイントであり、受験生のセンスが問われる。出題側は一般論ではなく、あえてこの一文を付け加えることにより、受験生の「考える力」を試しているのである。解答としては、「再生可能エネルギーの利用」や「暮らしの中でできる省エネの工夫」などが考えられる。

 中学入試では、日常生活を題材にした記述問題が増えてきた。それにより、学校は受験生の論理展開のセンスを試そうというわけだ。今の中学は生徒の「考える力」を伸ばす教育に力を入れており、受験生にもその才能を求めている。

「三間の喪失」で子供の「考える力」が...

 子供の「考える力(=創造力あるいは想像力)」が落ちていると指摘されて久しい。それには、「三間の喪失」が影響しているようだ。
 
 「三間」とは、空間、時間、そして仲間の3つの「間」である。たとえば、「空間」。首都圏近郊ではほとんどの公園で、野球やサッカーなどの球技は禁止。子供が自由に遊べる空間が確実に縮小している。塾通いや核家族化、地域社会の衰退などにより、「時間」や「仲間」も激減した。さらにプラス1間、「手間」の喪失を憂慮する学校の先生もいる。親の過保護がその"犯人"であり、子供の「経験の場」が失われ続けている。
 
 日能研の原さんから、興味深いエピソードを聞いた。塾の体験入学で、講師が「1メートルって、何センチだ?」と尋ねると、学校で習っているから、ほぼ全員が「そんなの100センチに決まってるじゃん!」と答えた。続いて、「じゃあ、100センチって、自分の体で表すと、どこになる?」と聞くと、途端に手を上げる生徒が半減したという。
 
 その授業では残りの時間を使い、実際に体の色々な部分を測ってみたそうだ。すると、ある生徒が声を上げた。「身長と同じ数字がシャツのタグに書いてある!」―。この発見こそが、講師の狙っていた反応である。入試で問われているのは、単なる知識ではなく、「体験」や「共感」に基づいた知識なのである。

家族団欒こそ「最強の受験対策」

 「受験生にとって、一番大切なのは家庭です」―。インタビューの最後で、原さんはこう力説した。「考える力」を育む基盤は、まず家庭にあるというのだ。
 
 毎年、「歳時記」に関連して出題する学校がある。例えば、冬至に風呂に入れる果物を問う問題は、昭和世代の筆者には難しくはない。しかし、学校で教えることはまずない。では、なぜこの中学は出題するのか。こうした身近な問題への答えから、受験生の家庭環境や親子関係が透けて見えるからだという。
 
 些細なことでいいらしい。子供と一緒にテレビを見ながら、父親が「楽天のマー君のスゴイところって何だろうね?」「球が速いよね。でも、それだけかな?」―。親が子と一緒に考え、色んな視点を示してあげるわけだ。子供の目線で向き合い、コミュニケーションをとる、それだけで十分なのである。家族団欒(だんらん)、それこそが最強の受験対策なのかもしれない。

 おまけの問題を一つ。(八雲学園中学 算数)

imadoki-図2.png

(提供 日能研)

※正解はQuarterly HeadLine Vol.2 19ページ左下をご覧ください。


 

加藤 正良

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※この記事は、2014年1月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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