2014年01月01日
社会・生活
研究員
加藤 正良
(日能研の提供問題を修正)
いきなりですが、2013年度の中学入試問題から一つ。「南アルプス」という地形のほか、「直線的なルート」がヒントになり、リニア中央新幹線は「ほとんどがトンネル」になると気づく。それに気がつけば、愛さんの感想を「楽しかった」としても、「つまらなかった」でもよい。例えば、「窓の外の景色を見て楽しむことはできず、つまらなかった」などと答えられれば正解になる。
しかし、受験生の正解率は低く、「満点に届いた受験生はわずか」と出題者がインタビュー(日能研ホームページ記事)で答えている。どうやら、多くの受験生が「リニア新幹線が南アルプスを越える」と想像してしまったようだ。実際、「山の高いところから素晴らしい景色、眺めを楽しめました」といった解答が多かったという。「リニア新幹線」という名前を覚える知識だけではなく、その特徴を理解していないと解けない。
ある有名中学の2013年度入試では、人気アニメ「ドラえもん」が出題され、奇抜な問いかけが注目を集めた。「ドラえもん」が非生物の理由として、成長したり子孫を残したりできないことが答えられれば、点数をもらえたようだ。
大手進学塾、日能研の原和彦・情報企画ディレクターは次のように解説してくれた。「ドラえもんの設問だけに目をとらわれていては、出題の本質は見えてこない」―。この学校は同年の理科の全体を通じて、「生きるとは何か」を受験生に考えさせているのだという。
実は、この問題の別の箇所に、問題を解く上でヒントとなる文章が用意されていた。そこでは、生物であると判断するための特徴として、「自分と外界を区別する境目を有する」「自身が成長したり、子孫を作ったりする」「エネルギーをたくわえたり、つかったりする仕組みを持っている」―の3つが説明されている。問題の隅々まで目を配れないと、得点を稼ぐことは難しいようだ。
最近の中学入試では、正解が必ずしも一つではない、受験生の「考える力」を試す問題が増えている。このため、日能研は2009年にグループ討議による授業を始めた。各グループごとにディスカッションし、一つの成果を発表する。他のグループの結論と比較しながら、自分たちの討議を振り返る。自分の考えを示した上で、他人の考えと比較し、さらに自分の考えを見直すわけだ。このプログラムを通じて、考える力や共感する力を育てているという。
この問題では、「生活をできる限り変えない」という点がポイントであり、受験生のセンスが問われる。出題側は一般論ではなく、あえてこの一文を付け加えることにより、受験生の「考える力」を試しているのである。解答としては、「再生可能エネルギーの利用」や「暮らしの中でできる省エネの工夫」などが考えられる。
中学入試では、日常生活を題材にした記述問題が増えてきた。それにより、学校は受験生の論理展開のセンスを試そうというわけだ。今の中学は生徒の「考える力」を伸ばす教育に力を入れており、受験生にもその才能を求めている。
子供の「考える力(=創造力あるいは想像力)」が落ちていると指摘されて久しい。それには、「三間の喪失」が影響しているようだ。
「三間」とは、空間、時間、そして仲間の3つの「間」である。たとえば、「空間」。首都圏近郊ではほとんどの公園で、野球やサッカーなどの球技は禁止。子供が自由に遊べる空間が確実に縮小している。塾通いや核家族化、地域社会の衰退などにより、「時間」や「仲間」も激減した。さらにプラス1間、「手間」の喪失を憂慮する学校の先生もいる。親の過保護がその"犯人"であり、子供の「経験の場」が失われ続けている。
日能研の原さんから、興味深いエピソードを聞いた。塾の体験入学で、講師が「1メートルって、何センチだ?」と尋ねると、学校で習っているから、ほぼ全員が「そんなの100センチに決まってるじゃん!」と答えた。続いて、「じゃあ、100センチって、自分の体で表すと、どこになる?」と聞くと、途端に手を上げる生徒が半減したという。
その授業では残りの時間を使い、実際に体の色々な部分を測ってみたそうだ。すると、ある生徒が声を上げた。「身長と同じ数字がシャツのタグに書いてある!」―。この発見こそが、講師の狙っていた反応である。入試で問われているのは、単なる知識ではなく、「体験」や「共感」に基づいた知識なのである。
「受験生にとって、一番大切なのは家庭です」―。インタビューの最後で、原さんはこう力説した。「考える力」を育む基盤は、まず家庭にあるというのだ。
毎年、「歳時記」に関連して出題する学校がある。例えば、冬至に風呂に入れる果物を問う問題は、昭和世代の筆者には難しくはない。しかし、学校で教えることはまずない。では、なぜこの中学は出題するのか。こうした身近な問題への答えから、受験生の家庭環境や親子関係が透けて見えるからだという。
些細なことでいいらしい。子供と一緒にテレビを見ながら、父親が「楽天のマー君のスゴイところって何だろうね?」「球が速いよね。でも、それだけかな?」―。親が子と一緒に考え、色んな視点を示してあげるわけだ。子供の目線で向き合い、コミュニケーションをとる、それだけで十分なのである。家族団欒(だんらん)、それこそが最強の受験対策なのかもしれない。
おまけの問題を一つ。(八雲学園中学 算数)
(提供 日能研)
※正解はQuarterly HeadLine Vol.2 19ページ左下をご覧ください。
加藤 正良