2017年02月23日
社会・生活
研究員
加藤 正良
会社帰りにふらりと立ち寄るコンビニ。ここ数年のワインコーナーの充実には目を見張るものがある。品揃えの中心は1000円以下のデイリーワインだが、これがなかなか侮れない味わい。中でも存在感が増しているのがチリ産だ。
日本に輸入されるボトルワインの原産国は長年に渡ってフランスが圧倒的な首位の座にあった。しかし、2007年頃からチリ産の輸入量が急激に増加し、2015年には僅差でフランスを超えて史上初のトップに立った。
2016年はチリもフランスも輸入量は前年比マイナスとなったが、チリは1位の座を守り、フランスとの差を広げた。1990年代にはシェアが1%にも満たなかったかチリ産が、いまや市場シェアの30%近くを占める。
スパークリングを除くボトルワインの輸入量推移
(出所)日本関税協会/2016年累計(速報値)を基に筆者作成
チリは日照時間が長く、収穫期に雨が少ないブドウ栽培に適した地中海性気候。一方で、欧州に比べて人件費が圧倒的に安く価格競争力が高い。このため、自宅で飲む気取らないワインとして注目を集めるようになった。
この10年の躍進の背景にあるのは、2007年に発効した日本とチリとの経済連携協定(EPA)だ。通常輸入ワインには15%の関税がかかるが、EPA締結以降、チリワインの関税は段階的に引き下げられており、2016年時点で5.8%、2019年度には撤廃される予定。手ごろで美味いワインが、関税引き下げでさらに安くできるということで、コンビニやスーパーなどの量販店がチリ産の品揃えを強化しているのだ。
最近では欧米からチリに進出する生産者も多く、最新の醸造技術の導入でチリワインのさらなる実力アップも期待されている。デイリーワインは当面、チリ産の優位が続きそうだ。
ところで、第45代米大統領のトランプ氏は、就任早々の1月23日、選挙公約であった環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱する大統領令に署名した。もともと与野党の対立で連邦議会での批准が難しい状況ではあったが、これによって日米貿易の未来が大きく後退したのは間違いない。チリワインの状況を見るまでもなく、米国のTPP離脱は、米ワイン業界にとって成長のチャンスを逃すことにつながる。トランプ大統領当選後、為替市場で円安・ドル高となっていることもマイナス要因だろう。
温暖・少雨の米カリフォルニア州もブドウ栽培の適地。果実味に満ちたカリフォルニアワインは、実力でも人気でもフランスワインに引けを取らない。チリワインも悪くないが、ワイン好きの一人として、カリフォルニアワインをリーズナブルに楽しめる機会が遠のいたのは、なんとも残念だ。
あるレストランでの赤ワイン
(写真)貝田 尚重
加藤 正良