2017年03月01日
社会・生活
研究員
佐々木 通孝
動画サイトで世界的な話題になったピコ太郎さんの「PPAP」に関連する単語やフレーズを、ピコ太郎さんと無関係の会社が商標登録出願していることがわかり、1月下旬に新聞紙面やワイドショーをにぎわせていた。
商標出願しているのは大阪府茨木市のベストライセンス株式会社。知財関連情報を提供するインターネットサイト「知財ラボ」がまとめた2016年の商標登録出願数ランキングでは、ベストライセンスは1万9949件で断トツの1位。ちなみに第2位にランクしているのはベストライセンス代表者であり、1-2位合計で約2万5000件となる。第3位-5位はサンリオ、資生堂、花王と誰もが知っている全国区の企業が続く。この3社を合わせても1906件なので、ベストライセンスの突出ぶりが際立つ。ちなみに、ベストライセンスは毎年のように1万件以上の商標を出願しており、過去には「北海道新幹線」「STAP細胞はあります」など、その時々に話題になった言葉を出願している。
2016年の商標登録出願数ランキング
(出所)知財ラボのデータを基に筆者作成
【参考】 知財ラボ (https://jp-ip.com/ranking/1926)
特許や商標の検索サイト「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で調べたところ、ピコ太郎さんの楽曲に関連する商標出願は少なくとも36件あることがわかった。最も出願日が早いのは、2016年8月29日のベストライセンスによる「APPLE・PEN」。
【参考】 特許情報プラットフォーム (https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)
「PPAP」の出願は5件あり、最も早いベストライセンスの10月5日は、ピコ太郎さんが所属する会社の親会社エイベックス・グループ・ホールディングスよりも9日も早い。
ピコ太郎さんの動画に関連する商標出願(2017年2月22日調べ)
(出所)特許情報プラットフォームのデータを基に筆者作成
表の「ステータス」の項目では、出願が特許庁による「審査待ち」なのか「審査中」なのかが確認できる。商標登録には「先願主義」の大原則があり、2件以上の商標出願があったときは、最初に出願した人が商標登録を受けることができる。ベストライセンスの商標出願は全て「審査待ち」だが、エイベックスの1件は「審査中」になっている。つまり、特許庁はベストライセンスよりも出願が遅かったエイベックスを先に審査を始めているのだ。
この点に関連して特許庁は、2016年5月17日付けで「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」として、関係者に注意喚起を促している。
【参考】 特許庁ウェブサイト(https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm)
「最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような出願などの商標登録出願が大量に行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願となっています。特許庁では、このような出願については、出願の日から一定の期間は要するものの、出願の却下処分を行っています」という内容だ。「一部の出願人」が誰なのかは明記されていないが、今回の対応を見る限り、ベストライセンスとその代表者に関することを言っているように読める。
実は、特許庁は、出願手数料が支払われていない場合であっても、形式的に商標出願を受け付けた上で、一定の期間内に手数料を支払えば有効な出願として認め、審査手続きに入っている。にもかかわらず、「出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願」を問題視したのは、ベストライセンスが、そもそも手数料を支払う意志がなく、確信的に「商標の仮押さえだけ」を繰り返しているからだといわれている。
今回、後出しのエイベックスの審査を開始した特許庁。抜け道を封じようと動きだしつつあるのだろうか。
アップルとペン
(写真)筆者
佐々木 通孝