2017年03月17日
社会・生活
主席研究員
中野 哲也
野球の国・地域別対抗戦、第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は1次リーグのB組と2次リーグのE組が東京ドームで開催され、日本代表「侍ジャパン」が6連勝で準決勝(3月21日、米ロサンゼルス)に進出した。激闘に次ぐ激闘で予想以上に盛り上がり、昨今サッカーに押されがちな野球の人気に再び火がついた。平日でもドームには多数の観客が詰めかけ、準決勝進出を懸けたイスラエル戦を中継したテレビの視聴率は25%を超えた。
1次リーグを3連勝で突破したイスラエルの健闘に象徴されるように、国・地域間の力の差が小さくなり、好試合が続いている。過去のWBC優勝は日本が2回、ドミニカ共和国が1回。準優勝はキューバ、韓国、プエルトリコが各1回であり、実は本場米国は優勝どころから、決勝に進出したこともない。
メジャーリーグの公式戦開幕前だから、高給取りの選手をWBC に出場させてケガをされたら、球団は巨額の経済的損失を被る。だから、米国代表には必ずしもスーパースターが選ばれない。また、今回の侍ジャパンもニューヨークヤンキースの田中将大やロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手らを招集できなかった。
ただ、米国が弱いというより、ドミニカ共和国やプエルトリコといった小さな国や地域の代表選手が強烈なプライドを持ち、奮闘して好成績を残しているという側面もある。今回、侍ジャパンと延長11回の死闘を演じたオランダ代表では、カリブ海に浮かぶ同国領のキュラソー島出身のメジャーリーガーが奮闘している。
カリブ海の諸国では総じてサッカーより野球のほうに人気があり、技術レベルも非常に高い。筆者は時事通信ワシントン特派員時代の2005年5月、その秘密を聞きだそうと、ドミニカ共和国出身のミゲール・テハダ遊撃手(当時ボルティモア・オリオールズ)にインタビューを行ったことがある。テハダ選手は2004年アメリカン・リーグで打点王に輝いたスラッガーである。当時の取材メモを見ると、次のようなやり取りをしていた。
決して裕福ではないドミニカ共和国。野球の才能がある少年は、両親やきょうだいを養うためにメジャーリーグを目指すのである。だから非常にハングリーだし、肉体を極限まで鍛え上げる。そして、常に不安と戦っている。昨日まで実績を残しても、今日スターティングメンバーに入る保証はないからだ。とにかく練習に次ぐ練習しかない。日本は技術力が向上してメジャーリーガーを多数輩出するようになり、野球とベースボールの違いはほとんどなくなった。もしあるとすれば、ハングリー精神かもしれない。それは野球に限らず、ビジネス社会でも急速に衰えているが...
中野 哲也