Main content

進化する打ち上げ花火、最先端技術を吸収

=製造現場は手作業で真剣勝負=

2017年06月20日

社会・生活

企画室
竹内 典子

 夏の夜空を彩る花火。一瞬で消えてしまうのに、大きな大会になると数十万人が詰め掛ける。老若男女の心を捉えて放さない、その魅力はどこにあるのだろうか。

 花火の原型は狼煙(のろし)とされる。紀元前3世紀ごろ、古代中国・秦の始皇帝の時代、万里の長城では通信手段として使われていた。近代的な花火は14世紀後半にイタリアのフィレンツェで生まれた後、欧州で普及したといわれる。しかし、はっきりとした記録が文献に残されているわけではなく、その生い立ちには謎も少なくない。

 日本に火薬が上陸したのは1543年。種子島(鹿児島県)に漂着したポルトガル人による鉄砲伝来である。世は戦国時代、火薬の製法や鉄砲の研究が一気に加速した。鑑賞用の花火については、1613年に英国王ジェームズ1世の使者ジョン・セーリスが駿府城(静岡市)を訪れた際、徳川家康に花火を献上したという記録が「駿府政事録」に残されている。当時の花火は、竹の節をくりぬいた筒に黒色火薬を詰め、火の粉を噴出させた「立火」(たちび)という単純なもの。それをきっかけに、諸大名の間で花火が流行したという。明治時代に入り薬剤の輸入が始まると、色とりどりの光が生みだされるようになり、近代的な花火に発展していく。

 打ち上げ花火といえば、球体の花火玉を思い浮かべるが、実はこれは日本独自のもの。花火玉を割る火薬が中央に仕込まれており、中心部が爆発すると「星」と呼ばれる火薬が四方八方に球状に散る。だから、どこから見ても丸く見える。これに対し、海外の花火は円筒形のもが多く、空で柳が垂れるよう一方向に開くものが一般的だ。

 日本独特の丸い花火はどのようにして作られているのか。そう疑問に思い、150年以上の歴史を持つ老舗「丸玉屋小勝煙火店」(東京都府中市)を訪ね、竹山裕之さんに取材した。「花火は火薬を扱うため、工場は人里離れた場所にあります。花火の製作は機械化することが難しく、昔からの伝統的な手作業で丹念に作られています」―

丸玉屋小勝煙火店の竹山裕之さん

(写真)筆者

花火玉の断面模型

(写真)筆者


打ち上げ花火の製造法

①配合
 様々な種類の火薬と炎色剤などを混ぜ合わせる。出来上がったものを「和剤」と呼ぶ。

②星掛け
 和剤に水や糊を混ぜ合わせ、それを小さな芯の周りに幾重にもまぶしながら、丸い「星」にしていく。配合の異なる和剤を重ねると、色と光が変わる。この配合こそが花火の出来栄えを大きく左右する。

③玉詰め
 半球の「玉皮」(たまかわ)の内側に星を並べていく。さらにその内側に薄い和紙を敷いた上で、花火を割るための割薬(わりやく)を詰める。玉皮の表面を整えたら、二つを合わせて球状の玉にする。

④玉貼り
 玉にクラフト紙を糊付けし、隙間ができないように貼る。それが乾いたら、またクラフト紙を貼る。この作業を繰り返す。破裂した時の圧力が玉の表面に均一に掛かるよう、バランスを考えながら慎重な作業が求められる。

⑤乾燥
出来上がった玉は天日干しで十分乾かした後、火気厳禁の場所で保管する。



 玉の大小にもよるが、一つの花火が出来上がるまでに1~2週間、場合によっては一カ月以上かかる。竹山さんは普段イベントの打ち合わせや、打ち上げのプログラミングを担当しているが、繁忙期には花火の製造にも携わるという。「同じ材料を使ったとしても、全く同じ花火は二度と出来ません。思い通りの花火を作るには、熟練の技や職人の勘も大切です」という。花火は試し打ちが許されないから、一発一発が真剣勝負になる。

 打ち上げ花火は大きく分けると、割物とポカ物の二種類。割物は玉皮が厚く、上空で破裂した後で大きく丸く開く。「ドン」と鳴り響くような音を立てるものが多い。代表的なものには、光が尾を引いた後で花が開く「菊」や、尾は引かずに球状の光の点で花を表現する「牡丹」などがある。一方、ポカ物は玉皮が薄く、上空で玉がポカッと二つに割れた後、中に詰められた星や細工がこぼれ落ちる。光を放ちながら落ちていく「柳」のほか、「シュルシュル」という音を出しながら不規則に飛び出す「蜂」などがある。

20170619_03a.jpg(提供)丸玉屋小勝煙火店

 「どの色をどんな順番で組み合わせていくかを考えていくと、組み合わせは無限にあると言ってよいでしょう。日本の花火には種類がたくさんあるから、1時間見ていても飽きないのでは」と竹山さんは言う。最近はお客さんの目が肥えてきているため、打ち上げる花火の順番や組み合わせに一層の工夫が求められる。

 最近の花火大会で人気者は「スターマイン」。数十から数百本もの打ち上げ筒を使い、連続して打ち上げられる。タイミングよく数種類の花火を連続して打ち上げるため、コンピューター制御の点火装置が使われることが多くなった。事前に花火の種類や色彩、発射のタイミングなどをプログラミングすることにより、音楽と花火のコラボレーションも可能になった。大会を盛り上げられるかどうかは、竹山さんらの演出次第。花火業界は伝統を守るため、最先端技術も吸収しながら進化を続けているのだ。

 梅雨入り直前の今年5月27日、丸玉屋小勝煙火店は未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」の目玉となる打ち上げ花火を演出した。その舞台は、東京タワーやレインボーブリッジを一望できるお台場海浜公園。一番安い席でも8000円するが、人であふれ返っていた。3Dサウンドを駆使した花火イベントは、ライブコンサートのような盛り上がりをみせた。

 音楽に花火が加わった瞬間から、舞台と客席に一体感が生まれ、ショーにクギ付けになる。中でも、アクアボードを着けたパフォーマーは、足から水を出しながら、その水圧で空を飛ぶ。クルクルと回転しながら、花火をバックに夜空を舞い踊るのだ。そして、音楽のイメージにピッタリの花火が続々と打ち上げられていく。ダンスミュージックは華やかな色の花火、クラシック音楽には品格のある花火...。どんなリズムの音楽でも、花火が見事なまでに同調している。観客席では万雷の拍手と「スゴイ!」「サイコー!」といった大歓声が止まらない。

 この新しい花火イベントを支えていたのは、花火職人の熟練の技。その伝統だけでなく、決して守りに入らずイノベーションを追求し続ける心意気である。「花火は開いてからわずか数秒のマジック。一瞬で消えていくものですが、お客さんの思い出の中でいつまでも輝き続けてくれれば...」と竹山さん。職人の魂が込められた花火は日本の夏に欠かせない。

20170619_04a.jpg(提供)丸玉屋小勝煙火店

竹内 典子

TAG:

※本記事・写真の無断複製・転載・引用を禁じます。
※本サイトに掲載された論文・コラムなどの記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、当研究所または(株)リコーの見解を示すものではありません。
※ご意見やご提案は、お問い合わせフォームからお願いいたします。

戻る